>>625 はっちゃけました

選択したお題:『参戦』『その場しのぎ』『病気』『夢』『蕎麦打ち』

【SOBA】

 民間人として軍に同行することを許され、その場その場で蕎麦を振る舞う日本人の従軍蕎麦打ち職人がいることをご存知だろうか。
 今回はそんな職人の一人である傍野将也(そばのまさなり)さんに迫る。
 傍野さんは定年退職後に一人旅で訪れた異国の地で、テロリストによる襲撃に巻き込まれた。人で混雑する街道のなか、後ろから銃撃されたのだ。
 その時たまたま背負っていた延し板はことごとく弾丸を弾き、本人の命どころか彼の前にいた少なくない命を救うこととなった。
 彼は数え切れない銃弾の衝撃によって意識を失ったが、夢の中においてその地で崇められている異教の神から天啓を授かったという。

『汝、戦禍に見舞われた腹ぺこ達に蕎麦を打て』

 傍野さんがテロとの戦いに参戦したのはそれからだと話す。

 その時銃弾を防いだのはこれですと、表面に弾痕一つない綺麗な延し板を見せてもらった。

――これはヒノキですか?これで銃弾が防げるというのはとても信じられません。何か特別なことでもあるのでしょうか?
「この延し板は私が生まれた時に与えられました。代々伝わる我が家のヒノキからできたものです。全然普通ですよ、何も特別なことなどありません」

――先祖累々の守護が付いているというわけですね。
「私の知り合いにはA-10の掃射があって巻き添えを食らったという者がいますが、五体満足で日本に帰国してますよ。似た体験をしたと言う者も他にたくさんいます。それを守護というのであれば守護なのかもしれません」

 そんな延し板で打たれる蕎麦は、奇跡のSOBAとして噂が広まっていた。

 テロリストによる被害を避けようと医師が逃げ出した地域では、取り残された病人やけが人が少なくない。
 病気によって起き上がれなくなるほど衰弱していた老齢の男性に、傍野さんは手打ちの蕎麦をその場で振る舞う。すると、その老人は一晩で回復した。
「ありがとう!これで曾孫の顔まで見られるよ!」

 戦闘で片足を失った兵士が宿営地へと担ぎ込まれるが、人の手も薬もまるで足りないという事態に出くわす時もあった。
 そんな人のためにも傍野さんは無言で蕎麦を打つと、大きな鍋で茹で上げ、医官へと渡す。
「SOBANOが作ったSOBAだぞ!その場しのぎであっても、無理やり食べておけ!体をSOBAで満たすんだ!!」
 兵士は薄れ行く意識の中、お椀に蕎麦をつけてすする。その場で用意された300グラム(大盛り二人前相当)を平らげ、満足そうに目を閉じた。
 失った部位が元に戻ることはなかったが傷が塞がり、流しすぎただろう血の代わりにSOBAが全身へと駆け巡ると、瞬く間に血の気を取り戻す。
 結局この兵士はその後の治療を必要とせず、リハビリを行うだけとなった。

 この地域におけるテロリズムがすっかり影を潜めたころ、傍野さんは次なるテロリスト集団のはびこる地へと赴く。
 大勢の人に見送られる中、延し板を上段に構えて勢い良く投げた。すぐさまその上へと飛び乗って去っていく傍野さんの姿が目に焼き付いて離れない。

〈おしまい〉

※注意※
従軍蕎麦打ち職人というのは思いつきです。本気にされると困ります。
ギャグなので、蕎麦粉の品質とか水質とかは考えないで下さい。
延し板の上に飛び乗って去る描写は、ドラゴンボールの桃白白ネタです。