まあ新年度始まった時期だし、多少はね(と言いつつ自分は2作目ドン)

使用したお題:『花見』『ツンデレ』『ハプニング』『アトラクション』『スカート』

【ある猫の話】(1/2)

吾輩は幼猫である。
 母猫から引き離され、気づいたらこんなところにいた。全く、生まれたばかりだというのになんて目に遭うんだ。
 私を抱え上げた人間が、その下にいる小さい生き物の横に私を並べた。最近ようやく開いたばかりの目を凝らして隣の温かい生き物を見た。
 私を持ってきた人間と比べて、それは恐ろしく小さな生き物だった。黒い体毛もなく、肌色一色だ。なんとも頼りない存在に見える。
 なるほど、生まれたばかりの私と、生まれたばかりのコイツを兄弟のように育て上げようという魂胆か、とすぐに悟った。しかし私から見たら、弟妹というより出来の悪い下僕にしか見えない。
 よたよたと近づいて下僕の顔に肉球を当てたらいきなりうるさい声を上げて鳴き出した。驚いた私は無様にも飛び退ってしまった。大きい方の人間が笑っているようだった。
 なかなかやるではないか、下僕のくせに。

 吾輩は子猫である。
 毎日遊びたい盛りだ。何をするのも興味深くて、いろいろ手や尻尾を出してしまう。そのたびに下僕と一緒に怒られている。全く、あの泣き虫にも困った物だ。
 下僕は明日から小学校というところに行くらしい。毎日赤いランドセルを嬉しそうに背負っている。
 しかし下僕とは違い、私はとても不愉快だった。私の餌やり係兼ブラッシング係はいる。夜にしか帰ってこない風呂洗い係兼爪切り係は帰ってこなくていいが、いる。
 ただ下僕が小学校とやらに出かけて家にいなくなると、猫じゃらし係が欠けてしまうことになるではないか。
 下僕のくせに私を蔑ろにするなんてけしからん。罰として、今日は近づいてきても遊んでやらないことにする。
 泣き虫な下僕の泣き顔を思い浮かべて、私はキャットタワーというアトラクションのてっぺんでそっとほくそ笑んだ。

 吾輩は猫である。
 最近は自分で言うのもなんだが、落ち着いてきたと思う。しかし、その分狩猟本能が疼いて仕方ない。
 下僕が初めて反抗した。どうにもこうにも、困ってしまった。
 運動好きだったからズボンを履いていた下僕だが、最近妙にヒラヒラする布を腰に巻くようになった。それがいけなかった。
 そのヒラヒラが気になって飛び掛かってしまったのだ。そしてタイミングも悪かった。爪切り係がサボるのがいけない。そのヒラヒラを真っ二つに裂いてしまった。それがいけなかった。
 下僕はカンカンに怒り、私に向かって大声をあげた。餌の時間を知らせるような大声ではなく、怒りを露わにした怒号だった。初めてのことだった。恥ずかしながら私は怯んだ。
 餌やり係が泣きわめく下僕を慰めていた。私は下僕相手とはいえ悪いことをしたら悪いと思う程度には謙虚だ。下僕の様子が気になって仕方がなかった。
 その夜、下僕のベッドに久しぶりに潜り込んだ。許してくれたかはわからない。しかし下僕は私を抱きしめて顎下を撫でてくれた。
 温かかった。

 吾輩は成猫である。
 最近体を動かすのが億劫になってきた。だからだろうか、時間が経つのが早い気がする。
 下僕はこの前中学校に入ったと喜んでいたのに、今度は高校とやらに入ると騒いでいた。対して変わってない制服とやらの着心地を確認して何が楽しいのだろうか。
 しかし、今回は一緒に喜んでやろうと思った。
 中学校とやらに入るときは、ただ制服が可愛いとか何とか言って喜んでいるだけだったが、今度は違う。詳しくはわからないが、毎日遅くまで外出し、家に帰っても自室で一人努力をしているようだった。
 私の遊び相手がいなくなることは正直不愉快だったが、我慢してやった。下僕も我慢して頑張っているようだったからだ。たまにソファーで寝そべっている私を執拗に撫でたりするのもされるがままにしていた。
 下僕が初めて心から努力し、その努力が実って高校とやらに行けるようになったのだ。私だって嬉しいのだ。好きなだけ浮かれるがよかろう。
 ……別れは近いのだから。