>>293

「お誕生日おめでとぉお……ぎぃにゃあああああ!」
 軽くポーズまで決めていた猫耳少女は、僕の姿を見た途端みるみると笑顔をひきつらせ、化け猫じみた叫び声をあげた。
「なななななん、で男!? あんた、誰?」
「……はぁ? 佐藤だけど」
「名前じゃないわよ! い、いも、妹とどんな関係かって聞いてるの」
「芋とどんな関係って……。強いて言えば食べる方と食べられる方……?」
「たっ、食べる!? なんて卑猥なことを言うの」
 青ざめていた彼女だったが、今度は耳まで赤くしていく。
 あまりの訳の分からなさに、俺は首を傾げて彼女をじっと見つめた。
 なんなんだこの猫耳女は。というより、なぜ昨日実家から芋が届いたことを知っている。
 まさか、俺のストーカー? こんな可愛い子が俺の家の宅配を見張っていたってことか?
「見張るなんて、そんなの必要ないのに」
「美春なんて必要ない!? あ、あんた、食べておいてよくもそんなことを。遊びだったの?」
「遊び? いや、親が食べろっていうから」
「親が言ったの!? なんて家……信じらんない……」
「普通だと思うけど。まあ、俺はあんまり好きじゃないけど、親父が食べろってうるさくてさ。男だろ、ってふざけて生で食わそうするんだよ。ついムキになって生で食べ返してやったら親父驚いてたなあ。あっはっはー」
「ち、ち、父親と、ちちおやと、ち……ち……」
 色々とパンクしかけた様子の彼女は、二、三歩後ろによろめき、次いで猫耳を剥ぎ投げ捨てた。
「美春が、美春がこんな変態だったなんて。わああああ」
 アパート中に響く声で叫んだ彼女は、手で顔を覆い走り去っていく。
「あ、待って君! 確かに見張る行為は変態的だけれども!」
「あれ、お姉ちゃんじゃん? どうしたのー」
 隣の家のドアが開き、顔を出した女が俺を見て不思議そうに目を瞬かせた。
「あの、今うちの姉と話してませんでした? どんな関係なんです」
「ストーカーする方とされる方の関係です」
「……え?」
 その後、全ての誤解が解けるまでかなりの時間を要したのだが、俺は猫耳少女を食べるべく頑張ったのだった。おしまい。