夜、私は一人でモレクの街中を歩いていた。
 目的はもちろん自分をおとりにして、連続殺人犯をおびき出すこと。

 街の治安隊に話を聞いてみたら、どうやら通り魔的に、女子供に手をかけているということのようだ。
 それなら私が最適だ、ということでこうして夜の街を一人で歩いている。

「――っ!」

 注意深く歩いていたけど、何気なくすれ違った一人の男が、私の背後に回った途端、首に手を回して、私を暗がりに引きずり込もうとした。

 首筋には尖った、冷たい感触を覚える。間違いなく刃物だ。
 巻き添えやとばっちりの人を出さないために、私は無抵抗のまま、男に路地裏に引きずり込まれた。

「ふ、ふふ、ふははは」

 男が立ち止まって、笑いだした。
 ちらっと肩越しにみた、手配書の人相書きと同じ顔だ。

「ねえ、どうしてこんなことをするの?」
「肉だ……肉だ、肉だ肉だ肉だ肉肉肉――」

 男は血走った目で、ナイフを更に私の首に押し当てた。
 話が通じそうにない。

 ならば、彼のためにできる事は一つ。

「肉肉にく――え?」

 男は目を剥いて、愕然とした。
 私はするり、と首に回されてている腕から抜け出し、数歩の距離を取って、男に向き直った。

 男は信じられないって顔で自分が持っていた刃物を凝視する。
 柄だけになったしまった刃物、刃の部分はほとんどバターのように溶かされて、地面にどろりとおちていた。

「もう、ここまでの方がいい。これ以上だと人間に戻るまでの回数が増えてしまう、、、、、、、、、」
「――うおおおおお!!」

 男はわずかに残った刃の部分を振りかぶって、私に斬りかかってきた。

 手を無造作に振り払う。

 赤色の魔力球――直前に作り出して、男の凶器を溶かした魔力球が、私の手の振りと軌道で飛んでいく。
 途中で爆発的に大きくなって、男の全身を呑み込んで、一瞬で溶かしてしまった。

 跡形もなくとかされた男、骨の一本も残ってない。
 多分自分が何をされたのか、痛みも感じる暇もなく絶命したはずだ。

 私は、地面に残された、男の刃物だった金属の塊をみて。
 生まれ変わる前に並んでいた時にみた、悪人達の悪行と生まれ変わりの事を思い出して。

「十人殺しなら、動物に一回ですむはずだから」

 男が、次の次はちゃんとした人間に生まれてくることを祈った。

やさしい