「……奴隷とは、人ではないのですか?」

「ど、奴隷は人じゃないって、みんな言ってるよ……」

「では奴隷であることの条件とは?」

 男の言葉に、少女は一瞬驚く。泣き声が止んだ。

「え、だってうちはずっとずっと奴隷の家系で……」

「奴隷ではなかった先祖だっているでしょう。戦争などで奴隷の身分になったのなら、それ以前は違うことになる」

「だって、奴隷は人間じゃないんだよ……」

「僕には、君が人間にしか見えません。君が奴隷だというのは世界のどの人間なのですか?
どの人間が否定すれば、君は人間で、どの人間が肯定すれば、君は奴隷なのですか?」

「に、人間、あたしが? え、え、」

 初めて、他人から人間だと認められた。家具として、所有物として扱われ続け、家族以外の人間から、初めて人だと言われた。
 それは、少女の中で最大の驚きだった。

「だって、あたし奴隷だから、人じゃないから……」

「自分が『誰』かを決めるのは、他人ではなく自分自信なんですよ。例え世界中に否定されても、君は君のなりたい物にならなくてはいけません」

「だって! それでも、あたしは奴隷なんだ、この焼き印を入れられた日から、あたしは……」

 不意に男が片膝をついた。しゃがむ勇者の左手が、少女の右手首を掴む。右手は顔の打撲痕へ。

「な、なに?」

「動かないで」

 柔らかな青い燐光、ジワリと手の当たる所に優しげな熱。治療魔術だ。

「……治ってる」

 男が手を離すと、右手のアザがきれいに消えていた。おそらくは顔のそれも消えているだろう。
 そして、右手が首筋、焼き印に当てられる。再び燐光が灯った。

「……この傷が君を奴隷にしているなら、無くせばいい。それでもなお、奴隷でいたいなら、好きにすればいいでしょう。
でもほんの少しでも『奴隷でいたくない』と思うなら」

 手が離れる。少女には、見なくても傷が消えていることがわかった。

「君は自分の意志で『人』でいるべきなんです」

「……あ、ああ、あ、」

こんな優しい主人公もいるってのになずなのサイコパスときたら