浦島太郎の蜘蛛塚拓馬伝

 むかしむかし、あるところに漁師の浦島太郎がいた。帝釈天と阿修羅が天界から浦島太郎を見ていった。
「あの男、亀を助けるだろうか」
 帝釈天がいった。
「ふん。漁師などにそんな義理があるものか。見捨てるだろうな」
 阿修羅がいう。
「よし、ならば、この帝釈天、あの男が亀を助ける方に百億年の寿命を賭けるぞ。一匹の亀を助ける。
そういうところから地球外生命体との和平交渉は始まるのだ。あの男が亀を助けるなら、宇宙人との和平交渉役に使ってもいい。
宇宙外交に必要なのは、宇宙征服などではなく、ひたすら宇宙和平交渉なのだからな。
亀を助けるなら合格。亀を見捨てたら不合格だ」
「面白い」
 そして、浦島太郎は海辺で亀がいじめられている場面に出くわした。亀が七人の男たちにいじめられている。一対七。勝てる戦いではない。
「やめないか。亀をいじめてどうする。亀がかわいそうだろ」
 浦島太郎は亀をかばった。
「おい、おまえ、おれたちの遊びに手を出すなら代わりにやっちまうぞ」
「なんだと。おれは亀の味方だ。やってやろうじゃないか」
 浦島太郎は喧嘩を受けてたった。
 そして、浦島太郎は七人の男にぼこぼこにされた。痛く、血がにじんだ。後遺症がでないか心配だ。
「おい、おまえも亀をいじめろよ。そしたら今日のところは見逃してやる」
 いじめっ子たちはいった。
「わたしはただの十分亀です。寿命が十分しかない亀です。どうせもうすぐ死ぬのですから、どうかわたしをいじめてあなただけでも救われてください」
 亀はいった。
 浦島太郎は迷った。十分しか寿命のない亀だと。それならもうすぐ死ぬではないか。
むしろ、いまだに生きているのが不思議だ。なら、この亀をいじめておれも助かろうか。
いや、そんなことでいじめっ子たちがおれを見逃すわけはない。抵抗しなければやられつづけるだけだ。
「おうおう、この浦島、十分亀の十分の人生のために命を賭けて戦うからよ」
「ほう。怖くないのか」
 怖い。怖いさ。浦島太郎だって怖い。もちろん。だが、ここで引くつもりはない。
 浦島太郎と七人の男は戦い、浦島太郎はぼこぼこになった。七人の男は帰っていった。
 亀は助かった。
 海から波がざぶんざぶんと押し寄せては帰っていった。
「浦島さん、助けてくれてありがとうございます。実はわたしは十分亀ではなく、億年亀なのです。
浦島さんに一億年の寿命をあげましょう。ついて来てください。わたしの背中に乗って。
人類の終末まで遊び暮らせるという楽園「竜宮」に連れて行ってあげましょう」
 そして、浦島太郎は、亀の背中にのって竜宮まで行った。竜宮で数百年遊び暮らした。
乙姫という娘と仲良くなり、共に長寿を得て遊び暮らした。
 億年亀はいった。
「実はこの竜宮は、宇宙人との和平交渉の連絡基地なんです。浦島さんと乙姫さんは、宇宙人と和平交渉をして生きていってください。
わたしは一億年生きている亀です。ちょっとは宇宙人について詳しいんです。
作戦は、ひたすら宇宙和平交渉です。戦いはぜんぶ避け、ひたすら和平交渉をしてください」
 浦島太郎は、一億年を生きて宇宙人と和平交渉をした。地球は太陽の膨張で海が蒸発し始めた。
地球は滅び、宇宙船「竜宮」は人類を乗せて宇宙を回遊した。浦島太郎はひたすら宇宙人と和平交渉をした。
 浦島太郎は、一億年では死ななかった。百億年生きた。
 大銀河があった。大宇宙があった。異次元宇宙があった。至高神に会った。亀を助けただけでそれだけがあった。