227の載せ直しです。よろしくお願いします。
メンテナンス終わってよかったですね。

「メーサ様、朝でございます」
まるでからっとした曇り空のような無機質な声が、水浸しの洞窟の中にいるように鈍く反響して聞こえてきた。僕は、紙粘土のような掴みどころのない夢路から抜け出した。
見知らぬ女の子が、僕の手を引いている夢だった。どのような状況で、どのような顔の女の子だったか、もう覚えていない。
目を開くと、真っ白な天井と、視野の脇に同じく真っ白な壁が見える。天井中央の照明以外何も装飾を施されていない。汚れ1つない。棺桶のように清潔な部屋だ。もはや箱と言ってもいいかも知れない。
僕は、体を起こした。自分の下半身とその上に覆い被さる掛け布団が、天井の代わりに視野に進入した。
僕は今、ベッドの上にいる。雲を幾重にも重ねたように白くてふかふかなベッドだ。完璧なベッドだ。しかし、完璧過ぎるが故に、そこから生活の温もりのような感触を全く感じない。
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
左横から、またあの声がした。僕は、振り返って応える。
「おはよう。いつも通りさ」
「それでは、『朝の挨拶』に向かいましょう」
彼女は、無機質ではあるけども、トーンを少し上げて、そう言った。
「うん」
と、僕は応える。
僕は、ベッドから抜け出すと、彼女のサポートのもと、顔を洗い、歯を磨き、水を飲んだ。そして、白く、汗を吸った寝間着から、白く、清潔なローブに着替えた。
「では、行きましょう」
「うん」
僕は、箱を出た。金属で出来た蟻の巣のようにいりくんだ廊下を渡る。右に曲がり左に曲がり、階段を降りて昇った。
5分ほど歩くと、ある部屋に着いた。
扉を開くと、この部屋は先とは違い、まるで王の間のような豪勢な装飾が施されている。幾何学模様を刺繍した絨毯に、絵画や芸術作品が陳列され、天井にはシャンデリアが吊られている。
扉から見た真正面には、壁の代わりに大窓がはめられていて、雲がまるで弾けとんだようにまばらに散らばった青空が見える。
僕は、その目の前に置かれたイスに座った。僕から見て斜め上に、映像を撮るための小型カメラが、トンボのように空中で停止している。
すると、窓越しに地響きのような歓声が起こっているのを感じ取った。僕は、窓越しに地上を見た。
地上は、まるで水が沸騰した時に出来る微細な泡のように蠢いている。
その最前を見ると、僕と同じかたちをしたものが思い思いに体を揺らしたり、拍手している。
しかし、そこから視線を遠方に向かって這わせていくと、まるで進化の過程を遡っていくように、特異な形状のものに変わっていき、僕の視力で確認できる限界の位置までいくと、それはまるで公園のゴミ箱のような形状になった。
「メーサ様、ご挨拶を」
隣に位置着いた彼女、あの最前にいるのと同じ『アンドロイド』の彼女が、僕にそう耳打ちした。
「――みなさん、おはようございます」
僕は、窓に向かってそう言った。歓声が、その鋭さを増した。
そう、これが僕の仕事だ。この機械文明の世の中で、唯一の『ヒト』として、『神の子ども』として、僕が産み出されてから9年間行ってきた仕事だ。