美世は足元に落ちている包丁を拾って上に向かって投げた。包丁は落ちてこない、天井に刺さったようだ。そして美世はカウンターの上の
バスケットからお絞りを掴むと袋を開いて手を拭きながら言った。
「さ、これでええやろ、精算してくれ」
 山田は仕方なく強盗の頭をチラチラ見ながら震える手で何度もしくじりながら精算した。そして精算が終わった美世が立ち去ろうと
ビニール袋に手をかけると山田が言った。
「ちょちょちょちょっとまま待ってください、こういう時は現場にいた人は残ってもらって警察に」
「はあ?なんでやねんウチビール買いに来ただけやがな、ビール温まるし警察に用はないで、ほなな」
「ちょちょちょ、お願いします、この男が起きたらどうしたらいいか」
「あのなぁ山田君、客をアテにすんのか?しかもか弱い女子を、それでも男かそんなデカイ図体して
一体身長ナンボやねん見下ろしくさってからに、大体今の時間帯はお前が責任者やろ、自分の城は自分で守れや」
「ででででも」
 美世は強盗の左手を指差し、山田をギロリと見上げて言った。
「これ見てみい、もう使いもんにならん、それにしばらくは目が見えんはずや」
 山田はフルフルと顔を横に振った
「はあ、しゃーないな、世話が焼ける、ほな右手も折っといたるわ」
「そっちかよ!」
 鷹山と雛子が突っ込んだ。
 美世は強盗の右手首を握るとぎゅうっと半回転捻り、指を掴んだ。
「ひぃ!やめてください!」
 ぐいっと力を込めた美世の手がピタリと停まった。
「どないせーっちゅうねんもう!」
「あの、あのあのあの、そうじゃなくてマニュアルで警察の到着まで……」
 山田はガタガタと震えながら半泣きの表情で両手を合わせている。
「はあ、ほな起きた時の対処法を教えといたるからそれでなんとかせえ」
 どうやらマニュアルに従っての引き止め作戦だったようだが美世は話を聞いていない。美世はおもむろにレジ袋から
1.5リットルのペットボトルを抜き取ると
 強盗の髪の毛を掴み、顔を持ち上げて腹話術を始めた。
「あれ?ここはどこ?私はだれ?ここはヘブンレイブン駅前支店、お前は強盗じゃ!」
 そういうと美世はペットボトルで思い切り強盗の側頭部を殴打した。強盗の頭は弾け飛び
レジに当たって跳ね返ると同時にレジはピピピ鳴って男は再びゴトリとカウンターに落ちた。
「ひぃぃいいいい!」
 山田の悲鳴が響き渡る中、美世はガッツポーズして叫んだ。
「つーーーーー烈な当たり!得点ボード直撃、逆転満塁ホーーーーームラン!」
 美世は手に残っていた髪の毛をぱっぱと床に捨てると山田にハイタッチを強要した。
「こうや、次お前やってみぃ」
 美世はペットボトルを山田の前に置くと再び強盗の髪を掴んで持ち上げた。
「ここは誰?私はどこ?」
 山田が首を横にプルプルと振った。
「はよせぇ、こいつ殴られすぎてわけわからんようになってもとるやないか!」
「ももももういいです!やりかたわかりました!」
「さよか」
 美世はぱっと手を離し、男の頭がゴトリと落ちるとレジ袋を掴んでさっさと店を出て行った。入れ替わりで
入ってきたカップルがビクッと立ち止まってカウンターと美世の後姿を交互に見ている。
 アナウンサーが解説に戻った。
「なんというか……その……どうやらこの女性は関西の人のようです」
 鷹山と雛子は絶句して同時に美世に顔を向けた。
「うん、ちょっとニュアンス違ったけどとにかくこの町の平和が守られてよかったなぁ、はっはっは」