だがレイが工業の話題を出さないのは、ギルムの街の一般冒険者にとってはありがたいことだったかもしれない。
なぜならここでレイが工業の知識など披露しようものならば、ただでさえ注目されていない自分たちが更にこの上なく惨めな負け組となってしまうからである。
中には必死の思いで木を伐採したのに意中の人に振り向いてもらえなかった可哀想な者までいる。
普通であれば木を伐採して自慢すればモテモテになってもよさそうなものなのだがそうなっていないのは、
やはりこの街にレイというあらゆる意味で特別な存在がいるせいだろう。
そのレイがこれ以上自分たちに差を付けてしまったら、惨めな能力しか持っていない彼らは口々に「羨ましいぜ」と言いながら集団自殺してしまいかねない。
さすがにレイもそこまでのことは望んでいなかった。
「まあ自分に害を与える存在でないのなら、隅っこで埃を食いながらかろうじて生きてるくらいはしててもいいからな」
そう呟くとレイは獰猛な笑みを浮かべた。