せんせいがあなたにはむつかしいかもしれないねといってかしてくれた本はすこし
ちのうがひくいひとのはなしでそのなかでチャーリーがしっぱいばっかりしてわらわ
れてしまうところでぼくがちょっとかなしくなってきたときに、かがくはかせがあた
まのよくなるちりょうをしたら、チャーリーがだんだんあたまがよくなっていったの
に、ぼくはとくにそういうちりょうをしていないのでよめないかんじがふえてきて、
やっぱりむりだなあとおもっていると、せんせいがあなたもがんばってよめばチャー
リーみたいにあたまがよくなるかもしれないというので、ぼくはいっしょうけんめい
よんでよんで、かんじがすこしずつ読めるようになってきて、うれしくなってどんど
ん読んでいくうちに、いままでぬかして読んでいた漢字も先生が貸してくれた辞書で
自分で調べて読めるようになって、知らなかったことや分からなかったことが理解で
きるようになるに従い、先生の貸してくれた本はいわゆるSF小説であり、現代の医
学ではこの小説に描かれているような手術は空想に過ぎず、治療で知能を高めること
など望むべくも無いという現実に直面させられるに至り、弱者が社会の片隅に閉じ込
められて生きなければならないことの理不尽に、そしてそのような生き方を我々に押
しつける社会に対するやり場のない怒りが湧き上がるのを抑えられず、せめて最低賃
金を一般労働者に近い水準に引き上げること、及び更なるnormalizationの促進を
含めた署名活動を始めるための準備会議を立ち上げようとした矢先、ふと先生が(先
生といっても彼は社会福祉課の職員に過ぎないのであるが)君は幸福だった頃のこと
を忘れてしまったのかいと悲しい目をして言うものだから、なんとなく感傷的になっ
て部屋の隅に投げ出してあったあの本を久しぶりに手に取ってみると、読み始めたの
がつい昨日のことのように思い出されて、そのままページをめくっていくうちに物語
に引き込まれてしまい、つい先へ先へと気持ちが先走って行くのに抗えず、読者とし
ては決してやってはいけないこと、つまり早く結末を知りたいという誘惑に負けて最
後のページをめくってしまったら、そこには果たしてどんな結末があるじゃーのん?