0940相模の国の人
2018/07/03(火) 21:42:32.27ID:0nPA2nZC諸国に牢人を募った。
多くの牢人が古府中に遣って来て、仕官を願い出ていた。
下は十代半ばから上は五十代まで幅広い。
中には困った輩も居た。
見掛けは八十を過ぎ、腰が曲がった翁が感状の束を手に仕官を申し出ていたのだ。
「儂は西は京、東は陸奥の国で戦に明け暮れ、獲った首の数は七十六! この儂を瀕死に喘ぐ武田家に仕官させよ!」
と大音声で叫んでいた。
この翁の見て多くの者が苦笑いを浮かべている。
「翁! 其方は七十六もの首を挙げたと申したが、其れは既に昔の話、今でも槍や太刀が振るえるか」
牢人の仕官を担当している石附丙伍が尋ねた。
「何を申すか! この通りじゃ!」
翁は佩いていた太刀を抜き振り下ろすが、鋭さが全くない。
太刀を見ると所々錆びているではないか。
「志には感服致したが、御引取り願いたい」
兵伍が申し訳なさそうに言った。
「何を申す! 無礼であろう!」
周りの者が翁を両脇に抱え放りだした。