『竜殺し』
 薄いバイオレット色の長い髪に、どこか退屈気な目。
 身体に纏う黒衣に、金の額当て。決まって休憩所の奥の席で、ウィストン(花の蜜から生成した酒)をロックで呑んでいると聞いていたが、噂の通りだった。

 一週間冒険者ギルドに通い、ようやく彼女を見つけることができた。
 彼女こそ『竜殺し』と称される、冒険者の階級を示す五段階評価で、上から二番目のミスリル級を冠している剣士なのだ。
 最上の階級であるアダマン級が、剣の師範代や将軍、ギルドマスターの名誉称号と化している事を考慮すれば、彼女が最上位クラスの冒険者である事は間違いない。

「隣をいいかな、少し退屈な話をしたいのだが」

 私は気後れもあり、やや冗談めかして声を掛けた。

「いいぜ、機嫌がいいからな。だが、つまらない話をしてみろ? お前の頭を叩き落す」

 私は肩を竦ませ、席に着く。
 そうして私は「なぜ竜を殺すのか」と彼女に問うた。
 本当に言いたかったのはこんなことではない。
 しかし、私はいつも婉曲なのだ。悪い癖だ、それでいつも主題が見えなくなる。

「なぜかって? 決まってるだろ、奴らは金になる」

「しかし、彼らは知性が高い。秘境で静かに住まい、滅多に人を襲わない。一部の竜の被害が大きいために、必要以上に敵視する者も多いが、実はゴブリンの方が遥かに被害は大きい」

 彼女は軽く笑う。私は続ける。

「仲間を殺され、秘境から逃げた竜は、住処を求め、人の集落を襲うことがある」

「金のためだ」

 彼女はそう言い、席を立つ。

「退屈だな、お前は。私を捕まえて、そんな話をしてどうなる?」

 私は彼女が扉から出て行く背を見送ってから、一人、溜め息を零した。

 結局、私は、疫病と貧困に苦しむ彼女の故郷が、人間に住処を追われた竜の襲撃によって滅ぼされた事を、彼女に伝えることはできなかった。
 私は静かに席を立ち、この街をそろそろ去ろうか、と考えていた。