『童顔の傭兵崩れ』
 彼はレニ・ヴァーントという、傭兵崩れの冒険者だ。
 背はやや低く、目付きは悪いが、どこか幼い顔立ちをしている。
 厳つい男ばかりの傭兵団ではさぞ悪目立ちしていた事だろうと思う。

 機会があればパーティーを組んでいるが、俺はこの少年のことが、やや苦手だった。
 じっと、俺を見透かした様な視線を偶に投げかけて来るからだ。
 俺の素性に勘付いている? ならば、もっと直接的な行動に出るはずだが……。

「おい、お前。今日の狩りが終わったら酒に付き合え。話したいことがある」

 移動中、レニが淡々と言った。 厚い黒の外套は顔の下半分を覆い隠しており、表情は窺えない。
 俺は緊張を押し殺し、答えた。

「ああ、いいよ」

 ようやく来たか。
 やはり、俺が王家絡みの出自と知って様子を窺っていたらしい。
 或いはフォルテ家の者かもしれない。交戦を覚悟すべきか? いっそ、狩りの合間に殺してしまうか?
 このタイミングで打ち明けたということは、俺にとって悪い話ではないかもしれないが、危険が多いことも確かだ。


 オーガの牙に腹を抉られたレニの死体へと、俺は目線を下げる。
 喰い破られた外套の下に、豊かな色白の胸が見えた。改めて、血の気のないレニの顔を見る。
 きめ細かい、柔らかそうな肌、少女のものだった。

「そうか、お前、女だったのか」

 ばかばかしい、王家も何も関係なかったのだ。
 いつ死ぬかわからない冒険者業だからと言って、俺みたいな顔も剣も懐も冴えない男相手にがっつかなくてもよかったろうに。
 その上度胸もないと来た。今日一日びくびくしていた結果がこれか、俺は馬鹿か。
 「おい、お前。今日の狩りが終わったら酒に付き合え。話したいことがある」
 いつもの冷淡ながらに明瞭な声を曇らせ、目を斜めに逸らしつつ、少し恥ずかしそうに言う、傭兵崩れの少女の顔が頭を過ぎった。
 俺はその場に突っ伏し、一人で泣いた。