お母さんに会いたくなった。

「透、こっちよ。おいで」

僕は、駆けていく。
飛び込むと、
お母さんは僕を包み込んでくれた。

優しい熱。

……それはいつの記憶だっけ。

僕は笑うのが苦手だったから、
いつも引きつった笑い方になった。
友達は何も言わない。

「透。おいで」

僕に差し伸べる細い手。
お母さんは、いつも笑っていた。
上手に笑えていた。

それはいつの記憶だったっけ。

もう忘れた。
いつの記憶なのか思い出せない。

ここにいるのは、僕、ひとり。