>>506

参考文献

3つ紹介します。
1.呉智英「デベソの秘密」/『言葉の常備薬』(2004, 2007)所収

朝鮮や支那では、きわめて汚い罵り言葉として、お前の母親を犯してやる、と言う。

「お前の母ちゃん、デベソ」の意味とは、

お前の母親の性器が大きいことを俺は知っている、お前の母親は俺の女だからだ。従って、お前は俺の子分なんだぞ、という威嚇なのである。

言葉の常備薬 (双葉文庫)

posted with ヨメレバ
呉 智英 双葉社 2007-06
2.笠松宏至「お前の母さん……」/『中世の罪と罰』(1983)所収

こちらを読むと、「お前の母さんでべそ」は、歴史的に由緒があり、かつアジア全域に広がる、母親の性に関わる悪罵の一形式であることがわかります。内容をまとめます。

悪口は、罪として鎌倉時代の法令である「御成敗式目」に明文化されていた。
そのため、悪口に関する「判例」が史料に残っている。
そのなかに「母開に及びて放言」という文言がある。
「開」の字には女性器を意味する「つび」の訓がある。「母開に及ぶ放言」とは、女性器に係る肉体的欠陥、奇形を言い立てているものだったのだろう。
また、別の史料では「おやまき」「ははまき」という悪口も見える。この語が「おやごろし」と並べられているところからすると、おや・ははを「まく(=枕く・婚く)者」の意であろう。

「母開」は単なる部分≠フ名称ではなく、これも母子相姦という行為≠フよび名ではなかったろうか。(p.11)

つまりこれは、原始社会からの性的タブーの違犯を示すものである。
仁井田陞『中国法制史研究 法と慣習・法と道徳』では、魯迅の随筆を引き「他媽的」という中国の罵倒語が紹介されている。
また小林高四郎氏によると、中国では行為の主体は罵倒する相手だが、トルコでは行為の主体を自分に置く。

中世の罪と罰

posted with ヨメレバ
網野 善彦 東京大学出版会 1983-01
3.武田泰淳『汝の母を!』(1956)

中国語での罵倒表現について探していて見つけた小説です。作者である武田泰淳(1912-1976)の従軍経験が元になったものと思われます。

全編(たぶん)が「日本ペンクラブ:電子文藝館」というサイトで読めます。

『汝の母を!』HTML(横書き)|PDF(縦書き)

高校生のときに現代文の問題で読んだ菊池寛『形』(青空文庫)以来の、読後感の悪い「読むと気持ちがざらざらする短編小説」にランクインしました。

『形』と違って、絶対に教科書とか入試問題で取り上げられそうにない題材なので、その意味でも貴重な発見でした。