親父の言葉を思い出して俺はマウスピースを噛み締めた。
「ふぅううう!」
 俺は鼻から唸り声を噴出すると頭から隙間に突っ込んだ。ゴリゴリと揉まれる体。あと6インチ手を伸ばせば勝てる。しかしその時俺の体が後ろに引っ張られ
前に進めなくなった。タックルするとゴールラインを割ってしまうと判断したダグがジャージを掴んだのだ。しかし俺は踏ん張った。
 伸びるジャージ、エンドライン上にある手を必死で伸ばす。ダグが作戦を変えて上から潰そうとしてきた。俺の存在に気づいた猛牛共も次々と覆いかぶさった。
 俺はいとも簡単に潰され、手からボールは叩き落とされた。

 俺がダウンしたのを確認して上から順に選手が立ち上がっていく中、俺は寝転がったままゴールラインをまたいでこちらを睨んでいるジャッジの顔を見た。
 拾ったボールを地面に叩きつける敵選手。黙る観衆。真顔で考え込むジャッジ。

雪はしんしんと降り続く。

 俺は這いつくばったまま瞬きを忘れて見守った。

「タッチダウン、」

 沸き起こる歓声。トライフォーポイント2点。今、逆転勝利が決定した。俺はデイビスに助け起こされ、腿を抱えられて高々と持ち上げられた。信じられない。
 生まれて初めてキッカーとしてタッチダウンした。興奮で震える体。デイビスは俺を抱えたまま観客席の前を行進しはじめた。ふとルルと目が合う。
 ルルは複雑そうな表情をしていたが、やがて溜息交じりに笑うと、親指を立てた。
 俺はにやりとして何かの満足を得た後味、俺を担ぐデイビスに話しかけた。
「優秀なフットボール選手ってなんだかわかるか」
 デイビスは満面の笑みで答える。
「決まってる、ボールを蹴りそこねてタッチダウンするまで走るキッカーの事だ」
「だいたい正解だ」