>>54

すみません、第3話でギブしました(私の読み方の特徴によるものが大きい)。ですので、そこまでしか読まずでの感想となります。
細かいことに拘らず、眺めるように読むと、ある種のいい気分が生じるように思います。ですが、きちんと読もうとするとちょっときつかったのです。
以下、どうきつかったか説明しようとしたら、かなりこき下ろす感じになってしまいました。
あくまでも読み方次第ではそうなるというだけで、真意は最後に申し上げます。

表現レベルが揺らいでいるのです。多少誇張しますと、凸凹感すら感じます。例えば、第1話の以下のようなもの。

一人称主人公は好き嫌いがはっきりしています。廃れた(寂れた)ところが好きだし、喧騒は嫌い。そうはっきり述べています。
然るに、悲しい、寂しい、楽しい、嬉しいということが分からない(そういう感情を持っていない)とも言っています。
この時点で一人称主人公の気持ち、思考が分からなくなります。しかし、語りて、一人称主人公なんです。
読んでいて、感情移入の手掛かりを失ってしまいます。ですので、主人公が描写する他人についても「?」になってしまう。

外見描写も分かりにくいものが散見されます。例えば、(クレナは)「垂れて落ちる寸前の蜂蜜を凍らせて、縦に切ったような形」です。
どこから垂れて落ちる寸前の蜂蜜なんでしょうか? スプーン、広口瓶、いろいろありますよね。
ですので、形状の想像がブレるのです。そうなるとイメージが安定せず、無駄に気になります(実際、形状自体は使ってないようですし)。

上記に絡んで「なんだか半分に切ったクレナみたいね」というのも不用意です。クレナは既に「縦に切ったような形」と明示されています。
切る前が落ちる水滴のような形だとすると、縦に切ると洋梨、楽器ならリュートかマンドリンなどが近いでしょうか。それをさらに半分、となります。
ちょっとした書き間違いだとすると、「縦に切る」「半分」が意図せず被ったのかなと思います(そう解釈して読み進めた)。

これとは別に「先端が花弁の様に開いた銀色のそれを私は吹いてみた」という描写がありますね。
花(弁)は様々な形があります。例えば、桜と朝顔は全然違う。ですので、これもイメージが揺らぎます。
それでも「花弁」から先が開いていると想像し、「吹く」から金管・木管楽器の類だと想像は出来ます。
なんとかイメージを持とうとしていると、すぐ後でその楽器が「ラッパ」と表現されています。

これは、がっくり来ます。じゃあそう書いといてよ、という気分、徒労感です。影響は、このラッパに留まりません。
クレナと喩えられた弦楽器にも、がっかりが及びます。花弁のような、をラッパと明示してくれるんなら、弦楽器も同じレベルでいいじゃん、と。
きちんと読もうとすると読めない理由の一つがこういう表現の問題です。これは小道具でのことですが、第2話ではシーンに齟齬が出ています。
一つには時系列です。わざと崩してあるようなんですが、崩したことがすっと分かるようになっていません。

シェラハとニケの時代の話を戦闘中に差し挟んだりしていますので、勇者シェラハが魔王に挑んで倒したのはいつか、先を読み進めてからでないと分かりません。
細かい点でも、例えば「激しい戦いは魔王の居城を一瞬で破壊し」です。一人称主人公の語りだとすると分からなくなります。
主人公はどこから戦いを見ていたのか。会話が聞こえるほどの距離なら、主人公はどうして巻き添え食ってないのか、等々。
文章が語る内容を忠実、子細に追おうとすると、こういう困難に行き当たってしまいます。

だけど、最初に申した通り、深く考えず、その場のノリ、気分で追っていくには、いい雰囲気が出せているように感じます。
もしかすると、矛盾やイメージのブレを押さえるような加筆修正をすると、そういう美点が減じるかもしれません。
楽に読んでいい気分を生じるという狙いに絞るのなら、情報の齟齬は割り切ってしまうべきなのかもしれません。