>>80

酷評になります。ちょっとどうかなと思う物語進行です。物語そのものは悪くなさそうなんですが、進め方についていけない感じです。

具体的にプロローグから見てみます。読んだ印象を簡潔に言うと、以下のようになっています。

・プロローグ:一人称主人公の自己紹介、かつ回想であることの明示
・ヴィレント:ヴィレント・クローティス(主人公の兄)の紹介
・スキルドとシルフィ:スキルドとシルフィの紹介
・復讐の始まり:ティミュレ・クローティスとスーディ・クローティスの紹介
・運命の分かれ目:状況紹介(ストーリー展開の準備)
・魔王:魔王の紹介
・魔王領の日々:主人公の修行内容の紹介

ここまでで約2万4千字、原稿用紙換算で60枚分です。それが全部、キャラの紹介、一部状況の紹介になっています。
事実上、何もイベントが起こっていない。ひたすら、このキャラは誰で、どういう人で、が続いている。
作者さんにはこれから何が起きるか分かっているし、キャラクターも作ったからよく知っている。キャラにも物語にも設定にも世界にも愛着がある。
だから、こういうキャラ紹介が延々と続いても魅力を感じるかもしれません。我々読者とて、好きな作品の設定書は熱心に読めたりする。

ですが、読者からは未知の作品なんです。キャラも世界も知らないし、だから興味を持つどころか、興味を持てるかどうかすら全く分からない。
読み始めてみると「誰が、どこで、どんなことをするのか」すら分からないまま、延々とキャラ紹介が続いている。
これらを覚えておけ、と言われているような気がしてしまいます。物語に進む前に、必須事項を先に勉強しておけ、みたいな感じですね。

さすがに無理です。これが例えば、「こういうアクシデントがあった」→「なぜそうなった」みたいだと、「じゃあやったのは誰だ」みたいな興味につながります。
だけど、キャラの名前やら境遇やら職業やらばかり読まされ、何をする/した人なのかがサッパリ見えません。
これでは読むモチベが保てません。我々読者は作者が考えたことを正確に知りたいわけではないのです。面白い話を見せて欲しいのです。
それも、何の予備知識もなく一読しただけで、目に見えて、体で感じられるように見せてくれ、なんです。

続く、「魔王山」からヘルハウンドとのバトルがあり、ようやく目を引くアクションで盛り上がるのかと期待します。
だけど、描写が単調、平板なんです。感じたことが記号的に書かれてはいるけど、非常に淡々として実感がありません。
それもそのはず、この物語は回顧なんですよね。プロローグで全てがとっくに終わっていることが明示されています。
主人公は生存確定です。「罪の物語」だからバッドエンドだということも確定している。ハラハラドキドキできるわけがない。

最新話までずっと同じです。バトルなどはある。だけど淡々と説明のみしている。感情や感覚は記号的で、生々しさなどは皆無です。
淡々としている一因は、例えばテンポですね。起こったことのリアルな時間経過と関係なく、状況を正確に伝えてきています。
だから、一瞬で斬りつけようが、長々と対峙しようが、読んでいる感覚ではどちらも同じくらいの時間経過に感じてしまう。
これも、回想だから出来事を正確に伝えるのが大事で、急ぐ必要がないせいでしょうか。

回想、回顧って自分語りの一種です。つまり自己紹介。既にキャラが立っており、読者も既によく知る主人公ならそれでもいいかもしれません。
だけど、シリーズものではない単発ものでは、かなり不利だと思います。赤の他人の愚痴聞かされるのは、ちょっとげんなりです。

一方、一文ごとの読みやすさ、分かりやすさはなかなかに優れているように思います。すらすら読めます。一文が集まった文章レベルでも同様です。
冒頭から最新話までの物語が持つ情報も、悲劇としては王道的な感じがします。つまり、盛り込まれたネタは悪くない。
しかしキャラ紹介を冒頭から長々やってしまう構成、単調でメリハリのない淡々とし過ぎた文体でとても損をしていると思います(最初に申し上げた「進め方」)。
キャラに焦点を当てるタイプの作品のようですから、冒頭で主人公に目を引くイベントを起こしてください。
そうすると主人公が何者で何をしたいのかを知りたくなります。他のサブキャラについても同様です。