0833この名無しがすごい!
2018/11/11(日) 18:41:48.90マコトが剣を抜いて構えると、チンピラ風の男は顔を怒りで真っ赤に染めた。
「坊主、もう半殺ししゃすまねぇぞ?」
周囲に、争いを止める者はいない。
遠巻きに見てニヤニヤしている者もいれば、マコトと男の勝敗を賭けている者もいた。
「マ、マコト様……」
フーリエだけは、端正な顔を歪めてオロオロとしていた。
「安心しろ、俺が負けると思っているのか」
マコトは、フンと鼻を鳴らす。
――まったく、お前を盗賊団から助けたのは誰だと思っているのか。
そんな考えが頭に過る。
「つうっ!」
男が頭を押さえ、顔を顰めながら後ろを振り返る。
マコトはへらへらと笑いながら、男に向けて手を伸ばす。
「これが床についたら、始めでいいか?」
見せつけたのは、男の髪の毛である。五本ほど握られている。これには男も驚いた。
マコトが信じられない速さで男の背後に回り込み、髪を引き抜いたのである。
観衆たちは、男の動揺の意味がわからずに首を傾げていた。
ただわずかに数人、目を剥いてマコトを睨んでいる者がいた。
恐らく、マコトの動きが見えたのだろう。マコトは得意気になって、ひらひらと手を振ってやった。
「ま、待ってくれ……! 俺が、俺が悪かった!」
「残念だが、遅すぎるんだよ……そうら!」
マコトが髪の毛を投げた、そのすぐ後だった。
――没収だ。
聞き覚えのある声が、マコトの頭に直接響いてくる。
忘れるはずもない、あの美しい女神の声である。
――お前如きの男に恩義を感じたことが、今となっては恥ずかしい。
――だがこれは、私のミスだ。わざわざ命まで返せとは言わん。
マコトは青褪めた。
「ち、違う! 違うんです、だって……これは……!」
髪が地面に着くと、男が喚きながら斬り掛かってきた。
「うわああああああ!」
破れかぶれといった心境のようだ。
「ウワアァアアアアアア!!」
マコトは男よりも倍はみっともない声を上げ、小水でズボンを濡らし、その場に膝を着いた。
我武者羅に振られた剣がマコトの肩を斬り、床を叩いて止まる。