0380この名無しがすごい!
2019/02/03(日) 21:41:57.87ID:lrjszM/k使用お題:『希望』『絶望』『豆まき』『砂』『文庫本』
【#2/3#】(1/3)
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
自身の吐く息の呼吸音が五月蠅い。心臓の鼓動が痛い程の早鐘を打つ。(どうしてこうなった!?)そんな思いが頭の中を駆け巡った。
時は2019年は2月の3日。いわゆる節分の日だ。
「ねぇ、豆まきしたいから、お兄ちゃん鬼やって?」
ソファーで寝っ転がりながら文庫本を読んでいた俺に妹が掛けたのは、そんな可愛いお願いだったはずだ。
「ああ、良いぞ?」
「ありがと〜!!」
笑顔の妹。手には小さな豆の入った桝。彼女はたどたどしいフォームで腕を振り上げ……
ビシッン!!
「は?」
顔の横を通り過ぎた煎り豆が、有り得ない音を立てて壁にぶつかる。それが僅かに掠っただけの頬から血が滲んでいた。
俺の生存本能が最大限の警戒音を鳴らし、脱兎の勢いでソファーの陰に隠れる。
(な、何だ!? 何が起こった!?)
チラリとソファーの陰から様子を窺う。そこから見えるのは、桝に盛られた煎り豆を掴み、腕を振り上げる妹の姿。
それだけを見ればほのぼのとした節分の姿にしか見えないだろう。だがしかし、その笑顔の妹の姿は、先程の異常な威力の投擲とのギャップによって、むしろ異様さを際立たせていた。
「おにぃちゃ〜ん? 隠れてたらダメだよぉ?」
ゾワリと背筋が震え、俺は咄嗟にソファーの陰から脱出する。
バシバシッ!!
床に跳ね返った煎り豆が、先程まで俺が居た空間を空しく通過した。
(跳弾……だと!?)
有り得ない煎り豆の弾道に、背中に冷たい物が走る。その威力もさるものながら。彼女の異様さにびびった俺は、みっともない程に慌てふためいて廊下を走り逃げた。
「……逃げちゃったか、でも、“狩り”は、これからだよ? おにぃちゃん!」