>>368
使用お題:『希望』『絶望』『豆まき』『砂』『文庫本』

【#2/3#】(1/3)


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 自身の吐く息の呼吸音が五月蠅い。心臓の鼓動が痛い程の早鐘を打つ。(どうしてこうなった!?)そんな思いが頭の中を駆け巡った。
 時は2019年は2月の3日。いわゆる節分の日だ。

「ねぇ、豆まきしたいから、お兄ちゃん鬼やって?」

 ソファーで寝っ転がりながら文庫本を読んでいた俺に妹が掛けたのは、そんな可愛いお願いだったはずだ。

「ああ、良いぞ?」
「ありがと〜!!」

 笑顔の妹。手には小さな豆の入った桝。彼女はたどたどしいフォームで腕を振り上げ……

 ビシッン!!

「は?」

 顔の横を通り過ぎた煎り豆が、有り得ない音を立てて壁にぶつかる。それが僅かに掠っただけの頬から血が滲んでいた。

 俺の生存本能が最大限の警戒音を鳴らし、脱兎の勢いでソファーの陰に隠れる。

(な、何だ!? 何が起こった!?)

 チラリとソファーの陰から様子を窺う。そこから見えるのは、桝に盛られた煎り豆を掴み、腕を振り上げる妹の姿。
 それだけを見ればほのぼのとした節分の姿にしか見えないだろう。だがしかし、その笑顔の妹の姿は、先程の異常な威力の投擲とのギャップによって、むしろ異様さを際立たせていた。

「おにぃちゃ〜ん? 隠れてたらダメだよぉ?」

 ゾワリと背筋が震え、俺は咄嗟にソファーの陰から脱出する。

 バシバシッ!!

 床に跳ね返った煎り豆が、先程まで俺が居た空間を空しく通過した。

(跳弾……だと!?)

 有り得ない煎り豆の弾道に、背中に冷たい物が走る。その威力もさるものながら。彼女の異様さにびびった俺は、みっともない程に慌てふためいて廊下を走り逃げた。

「……逃げちゃったか、でも、“狩り”は、これからだよ? おにぃちゃん!」