小中学校時代、桜の時期はいつも2人で兼六園を通って学校へ通った。子供の私には下らなかった観光名所も、その時期だけは宝石のように大事な思い出を作ってくれた。でも今、時速240qで思い出が遠ざかっていく。

 別々の高校に行った私と拓哉は春になると兼六園で落ち合った。私は雰囲気を作って恋人同士のデート風に持ち込もうと頑張った。
 だけどあなたはそんな事はおかまいなしで、小学生の登校となんら変わらなかった。ただ一つ違うのは屋台で買い食い
する事ぐらいだ。そんな時、ばったり友達と会ったりするとさらに最悪だ。
「あれれ、お2人さんデートかな?」
 意地悪そうに聞く友達にあなたは否定する。特に焦るでもなくごく普通にだ。
「なんでだよ、あ、そうだお前も一緒に歩こうぜ」
 友達はニヤニヤしながら私の顔をのぞきこむ。そして愉快そうに言うのだ。
「やめとく、あたしは野暮じゃないもん」
「なんだそれ」
 そしてまた登校する小学生2人に戻るのだ。そうしてふて腐れて歩いていると、木と木の間に○○君壮行会または歓迎会なんて横断幕を張って楽しそうにしている花見集団がいたりする。
「別れるなら春がいいね」とあなたは言った。
 私はドキリとする。
「なんでよ」
「だってさ、別れは寂しいけど新しい出会いがあるだろ?」
 そう、あなたは遠くしか見ていない。あなたは東京に憧れていた。大都会に思いを馳せるあなたの目は輝いていた。きっとあなたは夢を追って東京にいく。
 私は……。東京になんて行く理由が無かった。色々考えてみてもどれもしっくりこない。なのにあなたを追いかけるように東京に行くのもおかしい。だって私とあなたはただの幼馴染だ。

 だから今日。私は笑って彼を新幹線に送り出した。何もできなかった。1人で兼六園を歩いた。涙がポトリポトリと落ちる。同じように桜は散る季節を迎えていた。春が終わる。その時、一陣の疾風が吹き荒れた。
 激しく散り、渦を巻く花びらを見て何かがこみ上げてきた。私は自分を激しく責めた。
 バカだ! 惨めすぎる、こんな私は嫌だ! 春は別れと出会いの季節。そうだ、別れるなら春がいい。私は決めた。惨めで臆病な自分と決別する!

 五月晴れの真っ青な空の下、私は今、時速240qであなたに迫っている。