ボクのパパはボクが寝たあと帰ってくる。
 そしてボクが起きる前にお仕事に行ってしまって、いっつも家にいない……。
 前は日曜日は家に居たのに、今は日曜日でも家に居ない。
 お仕事、忙しいのかなぁ。

 ずっと前のことだけど、楽しいことがあったんだ。
 ママやパパの家族がみんなが集まってご飯を食べたんだよ。
 あんまり会えないいとこの翔ちゃんと大きな家の広いお庭でたくさん遊んだんだ。
 それでね、そこにね、鬼が来てね、ボクと翔ちゃんで豆を投げて退治したよ。
 ママは嬉しくて泣いていたみたい。ホントー楽しかったなー。

 それにその夜、翔ちゃんがウチに泊まってくれて、一緒に寝たんだ。
 ボクとママの寝る部屋には黒いタンスがあって、仏壇って言うんだって、それがとっても怖いんだ。
 だから寝る時に白い戸(ふすま)を少しだけ開けててもらうの、そしたら台所のママが見えるから怖くないんだ。
 でもその夜は翔ちゃんが一緒にいたからぜんぜん怖くなかったよ、でも戸は少し開けてたけどね。

 それから、いつだったかなー。夜ひとりで寝てたらちょっと目が覚めちゃって、台所でママが話してるのが聞こえたんだ。

「昔からあなたはそうだったわねー」
「えーそうかー」

 あーパパと話してるんだ。少し開いたとこからパパとママの声が聞きこえたんだ。
 それからすぐボク眠っちゃったけど、朝のママ、ちょっと嬉しそうだったよ。

 それから寝てるとき、時々ママとパパの話す声が聞こえたよ。でもいっつも聞きながらまた眠ってしまうんだ。

「『別れるなら春がいいね』とあなたは言った。覚えてる?」
「アハハ、その話かー。あれは、君が大学を卒業した後の夏ごろ、急に留学したいと言ったことがあっただろ?
 あちらの新学期、9月なんかすぐだ、急に離れるなんて……、まあ遠回しに考え直してくれという気持ちだったんだよ」
「でもちょうどその頃、お腹に裕太がいるのが分かって、留学しなかったのよね」
「そうだね、僕にとって裕太さまさまだ」
「そうね」

 ボクは夢だったのかなと思ったんだけど、朝ママに聞いてみると。
「あら裕太にも聞こえた? そうよ裕太が生まれる前のことや、生まれたときの話、幼稚園や小学校の話をしてたのよ」
 と嬉しそうに話してくれた。
「そうそうもうすぐ誕生日ね、そしたらすぐに2年生よ」

 ボクの誕生日は春分の日だといって小学校はお休みだった。
 そしてまた、いとこの翔ちゃんが遊びに来てくれて、この前と同じ大きな家の前の広い庭で遊んだんだ。
 鬼は出なかったよ、あの時、ボクと翔ちゃんで退治したからね。
 それからみんなでごはんを食べて、翔ちゃんは次の日は学校があるから泊まらなくて、ボクはママと一緒に寝たよ。

「裕太、起きなさい! さあ、早く顔を洗って。朝ごはんできてるわよ」
 朝になるといつものママに戻ったみたいだった、あの嬉しそうだったママはどこにいったんだろう。

「さあ行ってらっしゃい」
 行く前に、黒光りするタンス(仏壇)の方を見ると、今まで置いてあった白い布の運動会のお弁当みたいなのがなくなってた。
「いってきまーす!」
 ボクは元気よく玄関から飛び出した。