『もしもし』
「なぁなぁ泰蔵よ」
『なんや姉ちゃん』
「うちな、小説書き始めてん」
『ほう、何の話があるんかと思うたらまたえらい変化球やな、題材は』
「転生もののファンタジー流行ってるやろ? うちが転生する話やねん」
『もう飽和状態感があるけど大丈夫か、設定君は? どういう訳で転生してん』
「盲腸の手術失敗や」
『地味やな! そんなんで死ねるか?』
「それが死んまうねん、そやからあそこツルツルのまんま転生してまうねん」
『どうでもええわ! 普通は車に跳ねられたり爆発に巻き込まれたりちゃうんか、まあええわどこに転生してん』
「昭和30年の泉佐野や」
『思てたのとちゃう! 普通はヨーロッパ風味で魔物とか魔法使いとかおるんちゃうんか、泉佐野には魔物みたいなおっさんはおるけど魔法使いはおらんで、納税させる魔法はあるみたいやけど、まあええわどんなヤツに転生したん』
「コタツや」
『生き物ですらないんかい! ツルツル関係ないがな!』
「部屋は10畳一間や」
『そこには誰が住んどんねん、間取り的に独身の兄ちゃんか姉ちゃんか』
「10人家族や」
『せまっ一人一畳やがな』
「人はな、寝て1畳起きて半畳、米が日に30合あれば生きていけるんやで」
『最後の方が全然質素に聞こえんけどな、まあ人数が人数やしな、おとんがんばれ』
「おとんは無職や」
『働け! 子供たちが飢えてまうやろ!』
「心配せんでも猫10匹も飢えてる」
『心配しかないわ! 猫飼うんは人が食えてからやろ!』
「おかんはパートに出てる」
『それだけでやっていけるかい』
「一番上の子が大学病院で医者やってる」
『パートで医大だせるかぁ!』
「そんときはパート4個掛け持ちして23時間59分働いとってん」
『もうあと1分頑張れや!』
「でも医局の医者なんかパートとそない変わらんぐらいしか貰えんし貧乏に変わりはなかった、でも飢えててもみんな幸せやねん、みんなでコタツに入って笑顔が絶えへんねん」
『どうでもええけどコタツでかいな』
「交代で足入れんねん」
『交代かいな、まあそんだけいてたら部屋もぬくいやろしな』
「皆に求められて交代で入れられるうちも幸せやねん」
『言い方!』
「おとんにくっさいの入れられるのはちょっと嫌やけどな」
『そやから言い方!』
「ほんでおかんの実家の和歌山から送られてきたみかん食べんねん」
『現実的すぎるやろ、姉ちゃんにとったら貧乏子沢山で肩寄せ合っては憧れのファンタジーかしらんけど、一般人はそんなもんに興味ないで』
「ええねん、こんなん想像してるだけでうちは幸せやねん」
『姉ちゃん……』