月夜さん、自分が書いた小説の内容を覚えていない模様

八章:おっさんはたどり着く
プロローグ:おっさんは竜の祭壇を進む
三竜の祭壇にある、竜を模した三つの石像の口に、隠しボスである三竜がドロップした宝玉をセットする。
 その瞬間、大規模な転移が始まった。
 奇妙な浮遊感のあと目を開くと、そこは石造りの広々とした回廊だった。
「ユーヤ、風景変わったのに祭壇がある」
「あれ、ちゃんと宝玉もはまってるよ」
「きゅいっ?」
 お子様二人組とエルリクが首を傾げている。
 いつもの転移であれば、跳ばされるのは俺たちだけであり、元の場所にあったものは置き去りにされるので不思議なのだろう。
「ここだけの独自仕様だな。今俺たちが見ている祭壇と、俺たちがとんできた祭壇は世界が重なっているって扱いなんだ」
「世界が重なっている、ですか。そんな場所もあるんですね」
「ああ、だからこっち側で宝玉を外すと向こう側でも外れる。逆に言えば、向こう側で外されるとこっちのも消える。しっかり回収しておかないとな。あの祭壇にたどり着ける冒険者が他にいるとは思えないが、万が一にでも取られたら帰れなくなる」
「【帰還石】は高いもんね」
 ティルの言葉に首を振る。
「昨日、説明をしたのを忘れたか? ここは入り口とボス撃破したあとの出口以外からは出られない」
 一部の上級ダンジョンにある仕組みだ。
 いざというときの保険である【帰還石】を使えないことでリスクは跳ね上がる。
「あっ、そうだったね。じゃあ、もしここに置きっぱなしにして、向こう側で取られちゃうと、ボスを倒すまで帰れなくなっちゃうんだ」
「正解だ。……ただ、ここに置きっぱなしにすることのメリットもあることはあるんだがな」
 向こうからいつでも誰かが来ることができるということは、増援が来れるということ。
 ここのダンジョン突破は長丁場になる。協力者を用意し、支援物資を届けてもらうなんてこともゲーム時代にはあった。
 それに、パーティとはぐれた場合、宝玉をそのままにしておくと入り口から帰還することができる。
 石を外してしまうと、宝玉をもっているもの以外は入り口に戻ってもそこで行き止まりになる。
 ということをみんなに説明する。
「わかったよ。でも、やっぱり盗られちゃうの怖いから、もっていこ」
「私も賛成ですね。……途中で踏破を諦めて、戻って来て帰れなくなってたら絶望です」
 俺は頷いて宝玉を外す。
「フィルが持っておいてくれ。俺とフィルは結婚していて、ストレージ共有ができる。俺たちのうちどちらかが持っておくべきだ」
「そうですね。万が一の場合がありますから」

これに従うなら宝玉は外れているはず
しかし

八章:おっさんはたどり着く
第十二話:おっさんは打ち上げをする

 外にでるなり、目を細める。
 数日ぶりに浴びた本物の陽光。それがどうしようもなく心地よく感じる。
「街に近い位置に出口があって助かったわ」
「んっ、お外でお肉するなら早く帰りたい」
「まあ、その分、三竜の宝玉を回収して帰るのが面倒だがな。また、あそこまでいかなきゃならない」
「忘れてたよ! あれを捨てていくのはもったいないよ」
 別の使い道があるわけじゃないが、宝石としての評価が高いうえ、美しく、記念になる。
「しっかり回収していくさ。明日にな」
 どっちみち、【三竜の祭壇】付近に行く予定がある。
「それまでに盗まれてしまわないかしら?」
「大丈夫だ。あの場所を知っている奴自体がいないだろうし。それより、酒と肉だ」
「私も賛成です。早く行かないと席が埋まってしまいますよ」
「それはやだ!」「急ごうよ、ユーヤ兄さん!」
 お子様二人組が走り出したので俺たちも笑ってついていく。

結論
月夜先生は自分が書いた小説の同じ章の内容すら覚えられないようです