加えて、すでに戸籍上っは他人になっているたは云い条、実の父親がとんでもない性犯罪者であったことからの引け目と云うか、所詮、
自分は何を努力し、どう歯をくいしばって人並みな人生コースを目指そうと、性犯罪者の倅だと知られれば途端にどの道だって閉ざされようとの諦めから、
何もこの先四年もバカ面さげて、コツコツ夜学に通う必要もあるまいなぞ、
すっかりヤケな心境にもなり、進路については本来持たれるべき担任教諭とのその手の話し合いも一切行わず、
また教諭の方でも平生よほど彼のことが憎かったとみえ、
さわらぬ神に祟りなしと云った態度で全く接触を試みぬまま、見事に卒業式までやり過ごしてくれていたから、
畢竟、彼に卒業後のその就職先の当てなぞ云うのはまるでない状況だった。

『苦役列車』 西村賢太 より