何か知らんけど創文板にワイさん作のリライトが貼ってあったよ。
こっちにはないみたいので貼っとくね。わざわざ誰がやってんだろね?

257名無し物書き@推敲中?2019/07/06(土) 18:00:57.37
 資材箱を並べた上に服を撒いて敷物代わりにした安っぽいベッドの上で、男は横向きに眠っていた。瞼が痙攣ぎみに動く。右に寝返りを打った。
 大きく振られた腕がテーブルの角に当たった。一瞬表情を歪め、男は薄っすらと瞼を開けた。
 天井に当たる配管をしばらくぼんやりと眺め、伸びた顎髭を撫でつつ上体を起こした。ベッドの傍らに転がる草履に足を突っ込み、ふらりと歩き出した。
 目ヤニを指で穿りながら外に出ると濃密な緑が生い茂っていた。中央を叩いて窪ませた鉄板に水が溜まっている。男は顔を洗った。
 蔦に引っ掛けていた長袖シャツと長ズボンに着替え、新緑の中に出来た穴に入っていった。
 緑のトンネルは薄暗いが視界は通った。自身の足音と微かな物音だけを聴きながら歩を進めた。そうしてうねる道筋を経て、薄闇を断ち割って光が差し込む場所にたどり着いた。
 白い石塊の広がりに目を細め、用心しいしい翡翠色の川に近づく。川辺には杭が一本打ち込まれて蔓を編み込んだ縄が結びつけられ、その先端は川中に入っていた。
 男は腰を落として縄を掴み、手繰り寄せた。川面に飛沫が上がった。
 尚も引くと目の荒い網袋が現れた。中に乱杭歯で胴長の生物が掛かり、暴れていた。金色の眼が怪しく光る。細長い瞳孔が凄まじい憎悪を向けてきた。
 男は渾身の力で石を投げ付けた。息絶えるまで何度も繰り返した。
 哀願の鳴き声を上げて生物は絶命したが、男はそれでもなお頭部に何度か石を当てた。
 ようやく安堵の息を漏らし、男は汗を拭うと慣れた手つきで生物を取り出した。口が閉じるように両手で掴み、だらりと垂れた尻尾を引き摺り運んでいった。
 川辺の一角には白い蒸気が噴き出していた。男はそこに生物を投げ込み、素早く石を被せた。
 一仕事を終えた感慨で表情が和らぐ。心地よい風が吹いてきた。
 目を転じると下草に混ざって赤い花々が咲き、細い茎にそぐわない大輪が重たげに揺れているのが見えた。
 男はその花を摘んで小ぶりな花束を作り上げ、優しい眼差しを近くの高台へ向けた。先端には石碑のような物が建っていた。
 赤い花々を蔓で結び、形を整えたものを、男はそっと石碑の前に置いた。
「……君が持っていた、ブーケのようだ」
 石の表面には文字が刻まれていた。女性の名前に、享年を示す数字は二十六とあった。
 男は微笑んだ。目尻に深い皺を刻み、立ち尽くしたまま顔を上げた。
 広大な緑の大地を縫うように川が流れている。遠くには赤い山が聳え、微かな噴煙を上げていた。
 顎がやや上を向く。果てのない薄青い空に帯状の虹色が見える。折り重なって風に靡いているようだった。
「ここを地球と思える日が、来るのだろうか……」
 目に薄っすらと涙が溜まる。男は指先で目を擦り、ぎこちない笑みを正面に向けた。
「また来るよ」
 背中が丸みを帯びる。急に老け込んだ姿で男は大自然の中に戻っていった。