きっつ


「ユエおねえちゃんの代わりに、ミュウがパパを元気にするの!」
「いや、ミュウ、なにをぉおう!?」

 寝たままの状態なので下がれず、手はミュウの背中に添えられているので押さえることも出来ず、止めきれなかったハジメの唇――の端に(辛うじて顔を逸らせた)、
ミュウの唇がむちゅううう! と当てられた。子供っぽい、タコさん唇にしたキスだが、キスはキスだ。

「「「あぁ〜〜〜!!」」」
「ふむ、妾達どころか、ご主人様の意表まで突くとは……ミュウ、恐ろしい子じゃ!」

 シア、香織、雫の悲鳴が上がり、ティオのずれた称賛が響き渡る。シア達に密着状態で囲まれていたためハジメには見えていなかったのだが、
愛子達もシア達の直ぐ後ろ側で人垣を作っていたらしく、そこからも悲鳴が上がった。誰が悲鳴を上げたのかは言わずもがなだ。

 どうにか咄嗟の回避により、幼子の、それも娘のファーストキスの相手になるというアブノーマルな事態だけは免れたものの、周囲の者達にとっては余り関係なかったらしい。

 傍から見れば、幼子に押し倒されて思いっきりキスされているハジメの図、なのだ。無理もない。恐るべきは、ミュウが真似たユエの再現率か。それともミュウが真似るほど普段からハジメを押し倒している吸血姫のエロさか……

 と、そのとき、阿鼻叫喚の様相を呈する広間に、状況も場も読まないような、のほほんとした声が響いた。

「あらあら、まぁまぁ。私の娘ながら大胆だわ。でもね、ミュウ。ミュウは娘なんだから、唇を狙うのはいけないわ。旦那様の唇はママのものなのよ?」
「誰が旦那様≠ナ、なにがママのもの≠ナすかっ! どさくさに紛れて夫婦しないで下さい!」

 いつの間にかシアの隣に体をねじ込んだレミアが、そんなことをのたまい、シアが盛大にツッコミをいれた。