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使用お題→『限定スイーツ』『刀』『バイオリン』『神話』『歯がゆい』

【スイーツ日記】(1/2)

 私は刀だ。神話の時代から存在する刀だ。さる高貴な姫君の懐刀だったこともある刀だ。
 そんな私だが、刀の時代が終わると、他のがらくたと一緒くたに土蔵の奥深く押し込められ、久しく日の目を見ることがなかった。
 このまま忘れ去られるのだろうと思っていたが、ある日のこと、薄ぼんやりとした明かりに照らされて、誰かが私を手に取るのを感じた。

「んー、これは、なんだぁ? 鉈(なた)代わりに丁度いいなぁ」

 私を手に取ったのは、どうにも間の抜けた話し方をする女だった。どことなく見覚えのある顔立ちは、私の過去の持ち主、その誰かの子孫なのだろうと思わせた。

「んー、これは、よく切れるなぁ。えい、えいっ」

 その口調から受ける印象そのままに、女の刀さばきは刃が……歯がゆいものだった。
 畑を歩いては私を振り回して草を払い。

「おおっと、っと、っと。危なかったなぁ」

 すっぽ抜けそうになった。草ナントカの剣(つるぎ)じゃないんだぞ。
 誰かに当たったら……それは仕方ないが、石にでも当たったら大変だ。
 肥料の袋に私を添えて。

「窒素、リン、カリ。んー、これがバイオテクノロジー、あたしのバイオリンだぁ」

 勢いよく引いた。袋は音もなく切り裂かれ、中身が地面に散らばった。
 意味が分からない。
 台所では私をまな板に叩き付けた。

「んー、あたしのケーキがぐちゃぐちゃだぁ」

 女はケーキを千切って食べた。それなら最初からそうしてくれ。
 使われてこその道具。そこに異論などあろうはずがない。
 そうは言ってもだ。
 道具は持ち主を選べない。ままならぬ身が実に歯がゆい。