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使用するお題→『限定スイーツ』『刀』『バイオリン』『神話』『歯がゆい』

【蛙の子は蛙】(1/3)

M-08宇宙港、そう言われて万人が想像するのは“Moon”ー08宇宙港だ。

けれど私の頭にはその他にもう一つの宇宙港の名が思い浮かぶ、その名は“Mars”ー08宇宙港、私の故郷に最も近い宇宙港だ。

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「この値段じゃ買ってあげられないわね」

半重力ジェネレーターの損傷が激しいし素人の修理で誤魔化し誤魔化し使っても往復が限度ね、推進用ジェットもコルクスピン型の一世代前のジャージルピン型で警察に追われる身としては心許ない。

幸いなのはホバー用のライトエンジンが新品と付け替えられているから悪路も気にせず行ける事、五つも山を越えるのだから悪路走行に耐えうる物でないと買う意味がない。

「勘弁してくれ、これ以上値切られたら旨味が無くなっちまう」

そう言って薄くなった頭頂部を掻くジャンク屋の店主の白々しい言葉を思わず鼻で笑う、私のようなお尋ね者が買い物できるような店が旨味が無くなるギリギリまで値引きしているなんて事があるわけ無い。

使い捨てが精々のホバーバイク一台につく値段としてはまだまだ高すぎる、適正価格の1.8倍はする、足元を見られるのは仕方ないとして払うなら1.5倍が限度だ。

「これで手を打っちゃくれねえか?」

厚顔無恥にも白々しい演技を続ける男に、これは苦戦しそうだと、ロビーに残してきた彼という爆弾に一抹の不安を抱えながら私は値段交渉に精を出す。

こんな事に時間を使うくらいなら勢いに任せて払ってしまいたいのが本音だけれど、生憎と彼の用心棒を雇うのに有り金の大半を使ってしまい余裕がない、歯痒いけれど無い袖は振れないのだ、仕方がない。