>>179
お題:『了解です』『侍ジャパン』『蛾』『令和』『万世元年』

【時をかけない少女】


「了解です!!」

 部屋に朗らかな声が響く。
 その声を上げた少女は、キラキラとした希望に満ちた瞳で辞令を快諾した。

『辞令、令和元年のタイムテレビ支社への出向を命ず』

 辞令を出した側の男は、その頂点まで薄くなった髪をわしゃわしゃと掻いていたが、しかし、すでに決まってしまった事でもある為に、大きな溜息を吐きながらも口を開く。

「くれぐれも分かって居るだろうが、問題をおこすなよ?」
「分かって居ます! 問題などおこっても、この私がズバッと解決して見せます!!」
「だから!! 余計な事に首を突っ込んで、仕事を増やすなと言っているんだ!!」
「ははは! 怒ってばかりだと、ストレスで禿げますよ?」
「余計なお世話だ!!」

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 万世元年

 時間遡行技術が確立してからどれ程の時代が過ぎただろう。
 この時代には、すでに“時間”と言う物も調べ尽くされ、『すでに確定した歴史は、覆す事が出来ない』と言う事も分かって居た。
 つまりは、どれ程、未来の人間が過去を変えようとしても、その結果は変える事が出来ないと分かってしまったのである。

 例えば、超小型で高性能な爆弾を爆破させたとしよう。
 しかし、そこで爆弾が爆発したと言う歴史的事実が無いのであれば、当然、爆弾が爆発する事は無く、不発弾と成ってしまう。
 そして、単分子ナイフなどで現地の人間を斬り付けたとしても、歴史として残っていないのであれば、当然の様にナイフは刺さらず、怪我人が出る事は無い。
 
 そうなると『過去改変』等と言う事を行う者も当然居なくなる。当然だ、全くの無駄な事の為に動く者など居ないのだから。

 つまりは、未来人が何をしても現地に影響を及ぼす事は出来ない。そうなれば、歴史と呼ばれた物が、知識ではなく娯楽に変わったのは当然の事かも知れない。

 東海林 麻由佳は時間リポーターである。過去の時代へと赴き、その時代をリポートするのが仕事だ。
 彼女は、ある意味で人気のあるリポーターだった。

 何せ彼女は、どの時代に行ってもアクシデントに巻き込まれるリポーターだったからだ。
 他の、淡々と歴史的事実を説明するリポーターたちとは違い、彼女のリポートは常にアクシデントが付きまとう。
 それ故に人気が出るのも当たり前だろう。その分、局長の頭は薄くなってゆくのだが。