使用するお題→『後悔』『戦奴』『空白の100年』『サイダー』『満月の夜』

【奴隷なんてとんでもない全ては俺の捏造です】(1/3)


後に空白の100年と呼ばれる戦争があった、

世界規模の戦争、後に第一次世界大戦と呼ばれる大戦よりも遥か昔に、先史文明によって引き起こされたそれを考古学者達は日夜研究していた、

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ただでさえ語られぬ古代の戦争において、取り分け記述の少ない言わば歴史のアウトサイダー、後の世でそんな存在として扱われるとは思いもしない彼等には、“ある”特徴があった、

「よう、元気か」

「………………」

彼等は等しくその首に、真っ黒な首輪を付けているのだ。

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最前線に向かう船団が錨をおろす補給基地、かつては其処にも一つの国が在り、素朴に暮らす民達が人のように生きていた、“自分の故郷と同じように”、満月の夜空を見上げた戦奴の少女は、そんな感傷を胸に抱きながら船番をしていた、

そしてそんな彼女に元気かと尋ねた男もまた、戦奴として運ばれてきたこの船の積み荷の一つである。

「…………黙るなよ、どうせ長くねえんだ楽しもうぜ人生ってヤツをよ」

少女の歳は数えで15、男の歳は数えで29、ちょうど男は少女の倍の人生を生きている、彼が少女を気に掛けてしまうのは、今は離れ離れになってしまった家族と、彼女を重ねてしまったからだ、所詮は家族の代わり、今頃故郷でしてたはずの事の矛先を手頃な物に向けただけだ、

それは男も自覚していて、少女は数分前に明け透けと自分を語る男にそれを聞かされた、しかし少女は何も語らない、語ったところで何か意味があるわけでもないと口を開く気になれないのも理由の一つだが、

それ以前に少女の喉はとっくの昔に潰れていて、枯れた音を漏らすしか能のない存在になり果てていた、奴隷身分に相応しいボロ布の隙間から覗く惨たらしい残痕に男が気付かない筈もなく、応じられる事もないと分かっていながら、男は少女に話し掛け続けるのだ、

残り短い人生から孤独を追いやるために、それが少女のためなのか自分のためなのか………………

それは男自身にも分からない事だった。