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お題:ジャンル『コメディー』+『決意』『世界征服』『アイスクリーム』『キーホルダー』

【魔王討伐のその後の話】(1/2)


「私はやり遂げて見せる!! 世界征服を!!!!」

 やらなくて良い決意をする元魔王を俺は冷めた目で見ていた。
 魔王……言わずと知れた魔族の王。英語で言えばサタン。
 どうでも良いが魔王サタンって、英語だとサタンサタンになるんだな。

「おい!! 聞いているのか勇者!! 私は世界を征服すると言っているんだ!!」

 チラッチラッと、こっちを見ながらそんな事を言う。おそらく、“約束の時”間直になった為に何かアクションを起こしたくなったのだろう。まったく、寂しがり屋のかまってちゃんだな。やれやれだ。

「勇者って呼び方は止めてくれ元魔王、“元”だし、クラウトって名前がある……取り敢えず聞いとくけど、世界征服? てどうやってだ?」
「なら、私も元魔王では無く名前で呼べ!! フフッこれでも私は魔族の王だった女だぞ? 恐怖と絶望で……痛い! 地味に痛いからアイアンクローは、アイアンクローは止めてくれ!!」

 “ソレ”をやって討伐されたって自覚は無いんだろうか? この阿保女は。
 第一、こいつの名前「アマルティアスロウレスク・シャリウラウル・エブト・ルマイヤルリリーティム・エルベガルム」と言うのが長すぎる。
 面倒だから、コイツは“元魔王”で十分だろう。

 全くやれやれだ。

 魔族が人間領を侵略し始めた本当の理由は、領土的野心や種族差別的な物では無く、病魔の様に蔓延していた邪神の力の為だった。
 邪神は、妬み、嫉み、怒り、恐怖と言った負の感情を糧にして育っていたスピリチュアルな存在で、魔族達はそんな邪神に操られ人間達に戦争を仕掛けていたのだ。
 その為、勇者として召喚された俺は、その邪神を封印し、魔族の心に巣くって居た邪神の“芽”を消滅させたのである。

 邪心の邪神を封印したって訳だ。

 当然、この元魔王もその軛から解き放たれたハズなんだが、事ある毎にこうして『かまってアピール』をしてくるのである。この寂しんぼめ。

「ちょ、本当、痛!」

 大元の邪神を封印した事で我に返った魔族達は、自らの行いを反省し、これからは人間達に迷惑をかけない様にと大結界で作った亜空間領域に引きこもる事に成った。
 少しばかりの交易はするらしいが、細かい事は分からん。

 さて、そんな状況で、何故、元魔王が俺の所に居るのかと言えば、まぁ、人質代わりと言うやつだ。やれやれな事だが。

 曲がりなりにも、俺は人類を救った大英雄な訳だ。そんな男の所に元魔族のトップを置いておけば、“私達は逆らいません”ってポーズには成る。
 俺のやった事と言えば、魔王領にある魔王城に忍び込んで魔王を選り代にしていた邪神を封印しただけなんだがな。
 やってる事は正義の暗殺者って所か? やれやれだ。

「マジ、ギブ! 止め……」

 因みに魔族が許されたのは、そもそもが邪神のせいだって事も有るが、邪神の封印を強化するのに力を貸してくれたからって理由もある。
 ギブアンドテイクってよりは司法取引に近いか? 気持ちは分かるが、理由がなくちゃ相手を許せないってのも大変だな。やれやれだ。

「……? あ……」

 やけに静かだと思ったら、アイアンクローをされていた魔王が泡吹いて白目に成ってる。
 …………やれやれだ。