>>418

使用お題→『平面』『クローゼット』『レジェンド』『クリスマス』『手入れ』

【機知に富んだ紳士サン……】(1/3)

「なっ……なんじゃこりゃー!!」
 遠く北の果て、ラップランド。そこに一人の聖人がいた。
「どうしたでございますかおや、……おやー? どうしたでございますかー」
 白い付けひげには威厳がなく、中肉中背……むしろ痩せ気味のシルエットも頼りない。
 しかしながらこの男。
「どうしたでございますかー、サンタクロース様!」
 この男こそ、言わずと知れたクリスマスのレジェンド、サンタクロースその人である。

 *

 それはクリスマスを控えたある日のこと。例の赤い服の様子を見るため、男はクローゼットに踏み込んだ。そこで男は見てしまった。
「こりゃ手入れどころではない。新調するしか……」
「こっ、これはひどうございますね」
 地球温暖化の影響は、この極寒の地にまで及んでいたのだ。
「俺の服が……どうしてこんなことに……」
「これも、それも、あれも、カビだらけでございますよ」
 一年近く閉め切られていたその場所は、カビのパラダイスと化していた。
 それなりに広さのある空間が胞子に沈む、恐るべき状況。
 想像を絶する状況に、男はしばらく立ち尽くしていたが、やがておもむろに口を開いた。
「これは……これは正にヘーケの――」
「あー! こっちには黒いゴ某の死骸が落ちてるでございますよ……。それと床に穴が……これはシロアリではございませんか……?」
 北国の冬は暗く、深い。底の見えない極夜の闇が、彼らの眼前に広がっていた。