>>461

使用お題→『ファイナル』『かがみ』『鈴蘭』『餅』『正月』

【短日のこと】(1/2)

 正月のある日、僕は散歩に出る。
 外は風もなく穏やかで、ねずみ色の空に、かたくり粉の雪原が広がる。
 足跡一つない。
 歩く。歩けばぎゅるぎゅる鳴って、雪が潰れて、僕の足跡が残る。
 ぎゅるぎゅるが残る。
 足跡に、耳の中に、残ったぎゅるぎゅるは、ぎゅるぎゅる反響して、僕の体を温めた。

 *

 黒い林の横を通った。白い世界との落差で、林の中はよく見えない。
 僕は、特に注意もせず、林の横を歩いた。
 影が流れ出す。
 流れ出した影は、しかし、僕の足跡にすら届くことなく、雪の中に溶けてしまう。
 なあんだ、おかしいな。そう思って歩いていると、今度は小さいのが三つ、僕の目の前に飛び出した。
「ヤッ、コレハ、チュウ」
「デッカイヤツダ」
「トマルナ、チュウ」
 僕もそいつらも驚いて、雪の中で停止した。ネズミだった。
 その時、林の中で、白い影が揺らめいた。見ると、その影は、餅が伸びるように細く、長くなって、林の奥へと消えてしまった。
 するとネズミたちは、気が抜けたようになって、その場にへたり込んだ。
 僕はネズミたちから話を聞いた。それは小さな冒険の話だった。

 *

 ネズミたちの名前は、それぞれ、ファイナル、リーガル、ロイヤルと言った。
「オレガファイナルダ」
「リーガルトハ、チュウ、ワタシノコトデス」
「オイラガロイヤルダゼ」
 僕には全員が同じように見えた。
 ネズミにしては変わった名前だが、それは、ちょっと賢いやつが一族にいて、ハイカラな名前を付けて回ったのだった。
 そいつはもう死んでしまって、群れの中で、気の利いた名前のネズミは、この三匹で最後だった。
 そんなネズミの群れに、ある日、問題が持ち上がった。
 餌が足りない。
 ネズミたちは、一族総出で、冬籠りの準備をする。雪が降るまでの間、ねぐらに餌を集めるのだ。雪が積もったら、餌集めは終了だ。ネズミたちにできることはない。
 山ほど集めたはずだった。巣穴が一杯になるくらい。事実、餌はまだ沢山残っている。だけど春まで過ごすには全然足りない。
 ままあることだった。所詮はネズミのやることだ。とは言え、去年も、その前も、大丈夫だったのだが。
「オレタチコレデオワリカ」
「ウエジニカ」
「タベモノ、チュウ、ドコカニ……チュウ!」
 誰かが思い出した。
 林の中。ほこら。お供え物。
 まずは調査のため、三匹が選ばれた。若くて、素早くて、仲のいい三匹だ。
 風のない、穏やかな日だった。三匹のネズミは、白の世界に飛び出した。