0509この名無しがすごい!
2020/01/05(日) 22:04:19.72ID:fv/Pl5T6使用お題→『ファイナル』『かがみ』『鈴蘭』『餅』『正月』
【短日のこと】(1/2)
正月のある日、僕は散歩に出る。
外は風もなく穏やかで、ねずみ色の空に、かたくり粉の雪原が広がる。
足跡一つない。
歩く。歩けばぎゅるぎゅる鳴って、雪が潰れて、僕の足跡が残る。
ぎゅるぎゅるが残る。
足跡に、耳の中に、残ったぎゅるぎゅるは、ぎゅるぎゅる反響して、僕の体を温めた。
*
黒い林の横を通った。白い世界との落差で、林の中はよく見えない。
僕は、特に注意もせず、林の横を歩いた。
影が流れ出す。
流れ出した影は、しかし、僕の足跡にすら届くことなく、雪の中に溶けてしまう。
なあんだ、おかしいな。そう思って歩いていると、今度は小さいのが三つ、僕の目の前に飛び出した。
「ヤッ、コレハ、チュウ」
「デッカイヤツダ」
「トマルナ、チュウ」
僕もそいつらも驚いて、雪の中で停止した。ネズミだった。
その時、林の中で、白い影が揺らめいた。見ると、その影は、餅が伸びるように細く、長くなって、林の奥へと消えてしまった。
するとネズミたちは、気が抜けたようになって、その場にへたり込んだ。
僕はネズミたちから話を聞いた。それは小さな冒険の話だった。
*
ネズミたちの名前は、それぞれ、ファイナル、リーガル、ロイヤルと言った。
「オレガファイナルダ」
「リーガルトハ、チュウ、ワタシノコトデス」
「オイラガロイヤルダゼ」
僕には全員が同じように見えた。
ネズミにしては変わった名前だが、それは、ちょっと賢いやつが一族にいて、ハイカラな名前を付けて回ったのだった。
そいつはもう死んでしまって、群れの中で、気の利いた名前のネズミは、この三匹で最後だった。
そんなネズミの群れに、ある日、問題が持ち上がった。
餌が足りない。
ネズミたちは、一族総出で、冬籠りの準備をする。雪が降るまでの間、ねぐらに餌を集めるのだ。雪が積もったら、餌集めは終了だ。ネズミたちにできることはない。
山ほど集めたはずだった。巣穴が一杯になるくらい。事実、餌はまだ沢山残っている。だけど春まで過ごすには全然足りない。
ままあることだった。所詮はネズミのやることだ。とは言え、去年も、その前も、大丈夫だったのだが。
「オレタチコレデオワリカ」
「ウエジニカ」
「タベモノ、チュウ、ドコカニ……チュウ!」
誰かが思い出した。
林の中。ほこら。お供え物。
まずは調査のため、三匹が選ばれた。若くて、素早くて、仲のいい三匹だ。
風のない、穏やかな日だった。三匹のネズミは、白の世界に飛び出した。