>>522
誤爆ったすまぬ

《あれがたべたい》

自転車の前かごにみかん、後ろのかごにわたしを載せて大通りを走るお母さんの服をもちのように伸ばしながら、
わたしは伸びた部分が餅にならないだろうかと5才児の小さなあたまを悩ませていると
軽快に自転車を走らせていたお母さんが自転車を降りてゆっくりと歩き出した。

「ではつしき なんだって、あなたのだいすきなあかいくるま みていきましょうね」

お母さんはそう言うとみかんとわたしを連れて最強にかっこいい消防車の前にわたしを連れていってくれたが、
わたしはというと辺りに漂う湯気の香りに夢中だった。
お酒、焼きそば、お団子……よくわからないながらも魅力的なワードの行列に、ぐずぐずと歩みをのろくしているとお母さんは諦めたように屋台の一つに吸い込まれてくれた。
お母さんの足に挟まれ、うちのチャーリー(カマキリ)がわたしに捕まっている気分を味わいながらいい匂いをふすふすを嗅いで待っていると、
お母さんは白いお椀を持って壁際に並んでいる椅子にわたしを連れていき、
短く切れたうどんをわたしの口元に寄越してくる、
わたしはありがたくそれを頂戴し、お母さんはろくに何も食べずにまたわたしを連れて自転車に向かおうとした。
わたしがあんなにお腹が空いていたのだ、お母さんも空いているに決まっているのに、なぜお母さんは食べないのだろう?

温かいうどんで空腹が紛れたわたしはポケットからチャーリーが作ったメレンゲのような卵鞘を母に差し出して食べてと言うと、お母さんはなぜか引きつった顔で呟いた。

「もうすぐはるねぇ」