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使用お題→書き出し『「やめてくれ!」』+『タイムアタック』『会場』『四次元』『ダークホース』

【私が騎士団長様に代わって応募用紙を提出するのですよー】

「やめてくれ!」
 そう騎士団長様はおっしゃいます。ですが。
「やめません! 騎士団長様の鋼鉄の胃袋をもってすればー、打ち破れない敵などありませんー」
 神殿の守護者。その筆頭。私の目の前で通せんぼしている、クマさんみたいな大男。
 神殿騎士団長様です!
 その恵まれた体格もさることながら、大きな体に見合うだけの大食漢、健啖家(けんたんか)である、そのことでも有名なのです。
「それは買いかぶりというものだ。食事はゆっくり落ち着いて。これが俺のモットーなのだ」
 そう言いながら、応募用紙を取り上げようと、両腕を広げた格好で迫ってきます。
 でっかいなー。捕まったら逃げられないでしょう。
「モットー。モットーですか。それは結構なことです」
 対する私は、落ち着いて、騎士団長様の、やっぱりクマさんみたいなお顔を見上げます。
 この大会に参加するか否か、それは騎士団長様次第である。当然のことです。
「ですが! 騎士団長様!」
 私には使命があるのです。
「あなたのモットーと、あなたの胃袋が最強であること。その二つは矛盾しません……」
 騎士団長様の動きが止まります。
「ゆっくり食べる……それは確かに大事なことです。ですが、例えば、例えばですよ、神敵が目前に迫る状況をお考えください。あなたはそんな時でも『ゆっくり食べる』と、そうおっしゃるのですか?」
「いや俺はだな」
「否! そんなはずはない! あなたは大急ぎで食事を済ませ、最前線に駆け付けることでしょう」
 強くて立派なお方なのです、騎士団長様は。
「今回も同じです。神殿の危機なのです。故に! あなたは! あなたの意志で! この大会に参加する!!」
 そして優勝する! 私の脳裏には、そんな光景が浮かびます。
「いやあのな、仮に神殿の危機だとしてもだ、俺は戦士なのだ。そんな大会に出場するいわれもなければ、見世物になるつもりもないぞ」
 むむむ。この頑固者めー。話になりません。
 こうして、必死の抵抗むなしく、騎士団長様の、クマさん顔負けの大きな手のひらが私を捕らえようという正にその時。
「こっちゃこーい、こっちゃこーい」
 援軍の登場なのです。
「何をやっておられるのだ、あのお方は……」
 白い修道服に身を包んだ、信仰の力で文字通りピッカピカに光り輝く、ものすごい美女。あまりにも美し過ぎて、何を着てもコスプレにしか見えない彼女が、受付に立って手招きをしています。
「出場者募集中ですよー。こっちゃこーい」
「…………」
 その人間離れした美しさに、騎士団長様も目が離せないようです!
「いかがですか、騎士団長様。聖女様自らあのように呼び掛けておられるのです。これはもう参加するしかないなーそうだなー」
 返事がありません。ただのクマさんかな?
 騎士団長様の注意は、すっかり聖女様へと向けられているようです。これはチャンスです。
 私は、気付かれないようにこっそりと、騎士団長様の横を擦り抜けます。
 そこから一歩、二歩、三歩。ダッシュ!
「あっ、こら!」
 騎士団長様が追ってきます。聖女様! 受付に飛び込めば私の勝ちです!
「……捕まえたぞ! まったく……」
 クマさんの腕が、私のおなかに回されています。これは……!
「きゃーちかんーおそわれるー」
「なっ、何を馬鹿な!」
「あらー? 聖女の面前で不埒(ふらち)を働こうとはー」
「そんな!? 誤解です、いや言い掛かりです聖女様」
「問答無用ですー。お説教して差し上げますからー……こっちゃこーい」
「はめられたーッ!?」
 やれやれです。こうして私は使命を果たし、聖女様と私は騎士団長様の捕獲に成功しました。
「ぐぬぬ。こうなっては仕方がない。全力を尽くすのみ」
 いい加減な私たちの適当な計略でしたが、彼は神殿が主催する大食いタイムアタックの会場まで連行されてくれました。四次元の現実世界を食らい尽くす、異次元の胃袋を幻視する私たち。ところが。
 ダークホース。優勝したのは無名の若者でした。
 よもやの事態に、優勝賞金を支払わずに済ませて節約しようという私たちのたくらみは、失敗に終わったのでした。

※トリップ当てクイズ、縦読み、ひらがな4文字です。