>>561
使用お題『やめてくれ、』『タイムアタック』『会場』『四次元』『ダークホース』

【VR】(1/2)



「やめてくれ!」
「うるさい、さっさと金を出せ!」
「お金は出しますから! お願いですから刺すのはやめてくれ!」
 私は、左手には包丁、右手には現金を詰める用の黒いバッグを持っている。
全身黒の服を着てマスクとサングラスをしているこの格好は、いかにも強盗らしいのではないだろうか。
私はこの銀行に着くやいなや窓口に向かい金を要求した。
「ぐずぐずしていないでさっさとあるだけの金を詰めて持ってこい」
 手こずっているのかなかなか出てこない銀行員にイライラが募る。
先程他の銀行員が通報しているのを見てしまった。
このままの調子では警察が到着してしまう。
「はい、ただいま詰めておりますので少々お待ちを!」
 パトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
どんどん大きくなっている。
このままではまずい、捕まってしまう。そう思い金は諦めて逃げ出そうとしたその時、入口のドアが開き警察が中に駆け込んできた。

 目の前が真っ暗になり、音が何も聞こえなくなった途端に「体験はこれで終了です。VRゴーグルとヘッドホンを外してください」という文字が見えた。
それらを外して座席から立ち上がる。
 本日、私は日本最大級のVR体験イベントの会場に来ている。
このイベントには先程の銀行強盗体験ブースを始め、ゲームの世界を体験できるブースなど大小様々な五十を超える体験ブースが参加している。
周りを見渡すとどのブースにも大勢の来場者が並んでいる。今の時刻は十四時五十二分、まだまだ閉場までには時間がある。
次はどんな体験をしようか、歩きながら考えるうちにとあるブースが私の足をそちらに向かわせた。
 
 そのブースは「四次元ポケットの中で宝探し体験をしよう!!」といった題が付けられていた。
とても広いブースに設けられたそれは規模のわりには回転率が高いのか、それともたまたま空いているだけなのか並んでいる人が少なかった。
幼少より某国民的アニメのファンである私はそのブースでの体験に参加しようと決めた。

 五分程並ぶと私の番が来た。
ブースの中に入るとVRゴーグルとヘッドホンと専用のものらしきグローブを着けるように求められ、それらを付けるとあのポケットの中の光景と説明係の女性が目の前に現れた。
彼女は言った。
「本日は『四次元ポケットの中で宝探し体験をしよう!』に来て頂き誠にありがとうございます!! このブースでは名前の通り四次元ポケットの中での宝探し体験となっております。
しかし、ただ宝探しをするのではつまらないですよね? そこで参加者さん五人でこちら側が指定するひみつ道具、いいえ宝の中から五つ見つけるまでの時間を競ってもらうタイムアタック方式となっております!! 
制限時間はありません。最初の一人が五つ見つけた時点で終了です!! 
一位になった方には全国で使える商品券がプレゼントされます。金額は、宝探しの労力に見合った額となっておりますのでお楽しみに。
なんと今回の対決には先程も参加して頂き一位を獲られました方がいます。今回が初参加なのは一人となっています。
商品券はまたも彼のものとなるのでしょうか? 今回の宝はこちらです!! 
皆さまの目の前に表示された三十個となります!! 確認はよろしいでしょうか? それではスタートです!!」
 頭の悪そうな案内係の説明を聞き宝探しは始まった。
一位になれば商品券を貰える。
このような参加費無料のイベントで商品券という金銭的価値のあるものを貰えるなら儲けものだ。
是非とも欲しい。
彼女の提示した宝はどれも皆アニメで何度も見たことのあるようなひみつ道具だった。
私には周りの人々よりもあのアニメを見てきたという自負がある。
少しでも視界に入れば見分けられるという自身もある。
絶対に商品券を貰ってやる。
そう意気込んで宝を探しにかかった。