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お題:『ティーカップ』『ハゲ』『ハーディー・ガーディー(という楽器)』

【一夜の夢】
 楽器が掻き鳴らされ、辺りは華やかな音楽で満たされていた。
 丸いテーブルの上には、こんな色とりどりの花の咲き誇る花園には、いっそ似つかわしい白磁の茶器が用意され、無機質な表情のメイドがお茶を淹れている。

「何を考えている?」

 剣を構えたまま、勇者と呼ばれる少年が、眼前の男に訊ねた。

「いや、そう言えば、殺し合いなどしているにも関わらず、私達は、お互いにの事を知らなすぎると思ってね」

 その、病的な程の白い肌と漆黒の髪、そして捻れた角をコメカミの辺りから生やした男、魔王は、優雅な手付きでティーカップに手をかけた。

「ふざけんな!!」

 勇者が剣を振り、花々が舞う。
 アコーディオンやハーディー・ガーディーを演奏していた魔族達の手が止まる。
 魔王はどうと言う事もないと言う表情でその剣を指先だけで摘まみ止めた。
 魔王が大きな溜め息を吐く。

「成る程、まだ君は、この世界の事をよく知らない様だ」

 突風が吹き、花びらが舞う。
 目を守る為、腕で突風を塞いでいた勇者が、その目を再び開けた時、そこに有ったのは赤茶けた土で覆われたハゲ山だけだった。

 これが、その後、何度となく切り合い、しかし、親友と成った二人の最初の出会いだった。