>>688
使用するお題→『精神異性化』『ブルーベリー』『枯れ葉』

【日本語と英語】(1/2)

 ふっと、冷たい風が吹き抜けた。
 木の枝から何枚かの葉が剥がれ空を舞う。散りゆく枯れ葉を目で追いながら、私はポツリと呟く。
「木枯らしって、センスあるよね」
「ん? 何?」
「だから木枯らし。冬の風をよく喩えていると思うの。知ってる? ショパンの『木枯らし』って、海外じゃ『ウインターウインド』って言うのよ。興ざめじゃない?」
「あー、かもね」
 紗月の生返事に、私は彼女の顔をしらーっと半目で見遣る。
「かもねって、素っ気ない返しですこと」
 紗月は肩を竦める。
「だって、そんなの普段気にしないよ。私みたいなのが、普通、普通! 智子が変わってるのよ。相変わらず詩人だねぇ」
 私は、むっと口を尖らせる。
「詩人は止めて。私はポエムなんて書かないわ」
「だったね。書いてるのは、小説だった」
 口の軽い友人に、今度は冗談ではなく本気で咎める視線を向ける。
「……ちょっと、誰かに聞かれたらどうするのよ」
 低い声音を出すと、サッと視線を走らせる。……幸い、目の届く範囲には誰もいなかった。
「誰もいないじゃーん、大丈夫、大丈夫」
「そういうのは、発言前にキチンと確認した上で言ってもらえるかしら?」
「……目が怖いよ。いや、マジでごめんなさい」
 睨み付けてやると、紗月は頭を下げて見せた。
 ふん。最初から、そういう態度を見せなさいな。と内心吐き捨てたのを最後に、この無神経な友人を許してやることにする。
「で? 智子は今、どんな小説を書いてるんだっけ?」
 少しは反省したのか、紗月は私の耳元に顔を寄せ、囁くように尋ねる。彼女の吐息が耳を撫ぜて、何だかむずがゆい。
「……今書いているのは、海外の女子校を舞台にした小説よ。主人公のソフィアは、同級生のメイに恋をしてしまうの」
「ほう。いわゆる百合ものですな」
 私は軽く頷く。
「メイは、闊達で、どこか無神経な所もあるけれど、それでもどうしてか憎めない。そんな女の子。短髪で男勝りな性分だけど、でも心は普通の女の子なの。ソフィアのように同性の女の子に恋をしたりはしない」
「おっと、悲恋チックな気配が流れて来たね」
 紗月は、それでそれで? と視線で促してくる。
「叶わぬ恋心に、ソフィアは思い悩むわ。……そこに、一人の魔女が現れるの」
「魔女? 真っ黒なとんがり帽子を被ったお婆ちゃんかな?」
 私はくすりと笑う。
「そうね。童話に出てくるような老婆の魔女。安直かしら?」
「いや、いいんでない? 分かりやすいの大事だよ、きっと」
「そうね。私も、分かりやすいのは大事だと思うわ」
 私はふるふると首を振ると、脱線しかけた話を元に戻す。