>>738
使用するお題→『駅』『方程式もの』『生誕』『バナナ』

【ガンマンと駅長さん】(1/3)

さすらいの女ガンマンのシンディと彼女の愛馬サンセットは、雪が降り、銀世界と化し険しくも美しい渓谷の中を走っていた。

「雪を見るなんて久しぶり、もう何年ぶりかしら。で、でも寒い…」

しばらく走っていると何か茶色で長い物が見えてきた。よく見ると錆びたレールだった。
昔、列車が走っていたものの、廃線になったしまった名残だろうか。
特に気にも留めず走り続けるが、途中シンディのお腹がグゥーッと音を立てて鳴った。

「そういえば今朝早く町を出てから、何も食べていないんだったわ…」

携帯している食糧も既に底を尽きていた。こうなったら何とか次の町が見つかるまで我慢するしかない。
しかし、この寒い中体力が持つかどうか不安だった。すると小さな建物が見えてきた。
先ほど見かけた錆びついたレールがそこへと続いている、駅舎に違いない。

「あそこに寄ってみるしかないわね」

サンセットから降りると、シンディはその駅舎へと向かう。入る前に一応、ドアをコンコンとノックした。

「誰かいませんかー?」

大きい声で尋ねるも返事がしない。もう既に廃虚と化していて、誰もいないだろう。
シンディはお構いなくドアを開けて中に入る。

「食料庫くらいはあるはず…」

床板は錆びており、その上を歩く度に拍車のカチャカチャ音が余計に大きくなる。

「誰かいるのかね?」

突然、人一人いないであろう駅舎の中に老人のような声が聞こえ、シンディは一瞬心臓が止まりそうになる。
暗闇の方に目を向けると、こちらに一歩一歩と足音が近づいてくるのが確かに聞こえてくる。
そこに現れたのはサンタクロースのように白い髭をたくわえた、恰幅の良い老人だった。

「か、勝手に入って悪かったわ。誰もいないと思ったから…」
「気にしなくてもいい。そりゃ誰もここに人がいるなんて思うはずあるまい」
「私はシンディ、さすらいの旅を続ける女ガンマンよ。お爺さん、もし食糧があったら分けてほしいんだけど。お金はちゃんと持ってるわ」
「食糧かい、近くに倉庫がある。好きなだけ持っていきなさい」

老人にそう言われ、倉庫に向かうがそこにあるのはたった一本のバナナだった。

「バ、バナナ!?それにたった一つだけ!?」
「そのようじゃな。欲しければ遠慮なく」
「うぅぅ仕方ない。ありがとうお爺さん、5ドルあげるわ」
「わしゃ金はいらんよ」

一本のバナナだけでこの寒い雪の中をやり過ごせるのか不安でしかなったが、何も無いよりはマシだ。

「お爺さん、風邪引かないようにね」
「お嬢ちゃんも旅、気をつけるんじゃぞ」

駅舎を出ようとしたその時、シンディは足下に落ちている空の瓶に気付かず、足を取られてしまう。

「ウワッ!ワワワワワワッ!!!」

そのまま足を滑らせ、後ろの大きな古い時計にドンッとぶつかってしまう。