では、供養させていただきますorz

お題:『クッキー』『庶民サンプル』『肉襦袢』『信楽焼』『マンティコア』

【異世界召喚物語】(1/2)


 気が付けば見知らぬ人達に囲まれていて、と言うのは、加藤 直也にとっては、実はそれほど珍しい事ではない。
 それほどアルコールに強い訳でも無いにもかかわらず酒好きな為、記憶を失うことが度々あるからだ。
 ただ、どう言うわけか――直也自身には自覚が無いのだが――信楽焼のタヌキにひどい執着があるらしく、気が付いた時には、タヌキの置物を抱いている事が多く、彼のアパートには大小様々な信楽焼のタヌキが集まっていた。
 その為、この時も……

「離せ!! 離さんか小僧!! よりにもよって姫の御前で、この様な!!」
「あ? ん、んあ?」

 目の前に“居る”のは、まるで生きているかの様なリアリティーを持った信楽焼のタヌキ。
 そのタヌキが、直也の手から逃れようと四苦八苦している。
 そして周囲には、人間とは思えないシルエットをした物モノの群れ。

「……うっわー、何だこれ? 夢?」
「夢ではない!! 起きたのなら儂を離さんか!! 小僧!!!!」

 怒りの為か顔を真っ赤にする信楽焼をまるで不思議な……いや、事実不思議なのだが……物を見た様な惚けた表情で眺めていた直也だったが、しかし「やっぱり夢か」と呟くと、再び目を閉じる。

「寝るな小僧!! ね〜〜る〜〜なぁ〜〜〜〜!!!!」

 ******

 直也は頭に出来たタンコブをさすりながら、胡坐をかいていた。
 彼の隣には先程の信楽焼のタヌキ……ではなく、リオンラクーンと言う種族のシャガラーキが片膝をついていた。
 リオンラクーンと言う種族は幻術を得意とする種族であり、このシャガラーキはその中でも高位の使い手だと言う。
 その幻術は、空間ですら騙す事が出来るらしい。
 つまり直也は、世界を“騙して”この異世界に召喚されたのだ。

「クックック。中々楽しい見世物だったぞ? シャガラーキ」
「お戯れを姫様。このシャガラーキ、御前での醜態、汗顔の至りでござりまする」

 直也とシャガラーキの居る床から数段上にある、やけに豪奢な椅子に座るのは、まるで冠の様に見える角に、刻褐色の肌、漆黒の長い黒髪を持った、深紅のドレスを着た少女。
 シャガラーキが言う通りであるなら何処ぞかの姫であり、日本生まれの日本育ちである直也にはなじみの薄い“王族”と言うやつなのだろう。
 ならば、ここは謁見の間であり、周囲を囲ってるのは貴族……なのだと思われる。
 ただし、それに確証が持てないのは、その周囲にいる者達が、いわゆる“人”の形をしていなかったからだ。

 百鬼夜行。

 そんな言葉がぴったり来る様な異形の者達。誰一人として同じ形の者など居ない空間に、直也は……特に気圧されても居なかった。

(SAN値直送ってやつだな)

 ふわぁ……と欠伸を一つすると、腕をボリボリを掻き毟る。酒を飲んだ後特有の気怠さが彼の体を包んでいたと言うのも理由の一つだろう。

「ふむ、これが“向こうの世界の”庶民と言うヤツか? 何ぞ、間抜けな顔をしておるな」
「御意に、向こうの世界の“あらゆるモノ”の中で“最も平均的”なサンプルを選びましたのでするが……成程、平均がこの程度であれば、異世界侵略も容易かと」
「はい?」
「小僧!! 勝手な口は慎め!!」

 あまりに物騒な話に思わず直也が声を上げると、シャガラーキが彼を制する様に怒声をあげた。

「いやいや、出しますよ、ものっそ出しますって、だってオレ等の世界、侵略するとか言ってるんでしょ? そりゃ出しますって」
「えぇい!! 黙れ!! 黙らんか庶民の分際で!! 本来なら、その首、掻っ切ってるところぞ!!」
「だ〜まり〜ませ〜ん!! オタク等も、あんま舐めた事言ってると、痛い目みせちゃるぜぇ!!」