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【リレー企画:『魔聖妖神奇譚アルカナ』】(1/2)

お題:『広告』『中の人』


『散りぬべき
 時知りてこそ
 世の中の
 花も花なれ
 人も人なれ』

 不意に耳に届いた聞きなれた声に、天城 洋輔は思わずカードを捌いていた手を止めてしまった。
 広告用の店内モニターの中では、随分と現代ナイズされた甲冑姿の姫武者が周囲の男達をバッタバッタと切り倒している。
 多くの来店客が足を止め、中にはスマホで写真をとっている者も居た。
 そんな人達を横目で見ながら、洋輔は、つまらなさそうに筐体のモニターを睨み付ける。

(最近の中の人は、随分と露出の多い事で)

 「へっ」っと鼻で笑いながら頭の中で悪態を吐くと、広告用モニターに映る、中の人こと九条 空音の姿を盗み見る。
 モニター越しの彼女は、キリリとした表情で自身の担当するキャラクターの衣装を纏い、まるで本物の姫武者の様に見えた。

 洋輔と空音の家は隣同士で、昔から家族ぐるみでの付き合いがある。
 その為、洋輔も彼女とは物心付く前からの知り合いであり、空音とは良く一緒に遊んだものだった。
 洋輔が前を歩き空音が後ろをくっついて行く……そんな関係に終止符が打たれたのは、彼女が声優に成ったからである。
 そもそも空音は「女優さんになりたい」と言う夢を持っており、その為、子供でも所属できる劇団に入っていた。
 そして、彼女が12才の頃受けたオーディションで、見事合格したのである。

 それこそが、今洋輔のやっているアーケードゲームであり、しかし、その時の空音の役は大勢いるキャラクターの内の一人にすぎなかったのだが。
 しかし、このゲームが大ブレイクし、その上、空音の声をあてていたキャラクターが、メインヒロイン達を差し置いて、まさかの大人気キャラクターとなったのである。

 そうなれば、中の人である空音に注目が集まらない訳はない。
 彼女は、その整ったルックスも相まって、一躍アイドル声優の道をひた走る事と成ったのである。

 当然だが、決してそこまでの道のりが平坦だった訳ではない。彼女がどれ程努力を重ねて来ていたか等と言う事は、洋輔だって知っている。
 ただそれと、どうにもできない持て余した感情が沸き上がる事を止められないと言う事とは関係は無い。
 そればかりは、理屈でどうにか成ると言う話では無いからだ。

 しかし現状、洋輔はただの学生でしかなく、洋輔と空音の関係は、ただのご近所さんでしかない。
 そんな彼が、彼女にとやかく言える事など何もなく、精々、このゲームで空音が声をあてているキャラクターを使わないと言った程度の抵抗しか出来なかった。