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お題:『ジャム』『夜空』『いいね』『ダウンジャケット』『変装』

【デビルアンドクラウン】(1/2)


 ハンドルを乱暴に切りながら、バックミラー越しに銃を向ける。
 破裂音を置き去りに、撃鉄が落ちた数だけ追っ手は減っていった。

 先頭を走る古びたシボレーは、蛇行を繰り返しながらも、後ろから追従するカマロやハマーからの銃撃を何とかかわして居る様子だった。

「凄い物だね、流石は組織ナンバーワンは伊達では無かったって事かな?」
『カカッ! 今日もブラザーはごっ機嫌の様だな!!』
「黙れ」

 シボレーの車中に居るのは一組の男女。
 だが、その二人の温度差が、決して色っぽい関係ではない事を物語っていた。

 男の名は中川 翔。元殺し屋で、現逃亡者。
 少女は、元同業者で、現同行者。
 “フェイスレス・ザ・パペットマスター”……こう見えても、一流の殺し屋である。
 そして、翔が握っている銃こそが、彼が追われる理由であり、そもそもの元凶。

 “コルト・シングル・アクション・アーミー『ピースメーカー』”

 数多の血を啜り、やがて自我をも宿すに至った妖銃である。

 追っ手である組織は、ピースメーカーを崇拝する狂信者集団でもあった。

 ターン!

 乾いた音が響き、追っ手がまた、その車ごと減る。

「フム、このままなら、僕の出番は無さそう……」

 ギロリッと、翔が睨み付ける。

「と、思ったが、少しは働かないと、家主がうるさそうだね」

 パペットマスターが、指で銃の形を作ると、引き金を引く動作をする。
 と、追っ手の1人が、突然、隣の運転手を撃ち殺した。

「僕の“人形”は、どこにでも居るのさ」

 硝煙を吹き消す仕草をしながら彼女が言う。
 一瞬、瞠目していた翔だったが、しかし次の瞬間、凶悪な笑みを浮かべた。

「いいね! 思っていたより、お前は良い拾い物だ!!」
「拾い物って……」

 そう言うと翔は、無造作にハンドルを切り、シボレーをターンさせると追っ手達の車に突っ込んで行く。

「ちょ! 君いいぃぃ!!」
「クククッ!!」
『カカカッ! 全く、今日は良い殺し日和だ!!』
「き、君達いいいぃぃぃぃ!!!!」