>>865
仕様お題→『蜂蜜』『メール』『銭湯』『広告』『中の人』

【邪神パスタ】(1/3)

鼻から熱いものが流れてきた。ぽたぽたと紙面に紅い液体が垂れる。
しばらく作業を続けていると、紅色が広がってダイアグラムを侵食してきた。
ちょうど行き詰っていたところだ。私はペンを置いて、ティッシュをちぎって鼻に突っ込んだ。

伸びをして台所に向かうと、壁一面に貼られた模造紙たちが目に入る。
こうしておくと現在の理論展開が一目瞭然となり何かと便利なのだ。
うちに招いた友人は『一生独身結界』とか失礼なことを抜かしていたが。
そういえば、あいつからもらったお酒があったのだった。

ボトルにはドイツ文字で「MET」と書かれている。蜂のマークがあるから、蜂蜜のお酒ということだろう。
なんだかおしゃれな気がする。こういうセンスが人たらしの秘訣なんだろうか。
コルクを抜いて、一口飲んでみると、すっきりした舌触りにほんのりと甘みがある。
もしかして上等なお酒か。鼻に詰め物をして飲んでいいものではないかもしれないが、のどが渇いていたこともあってごくごく飲んでしまう。

大して酒に強いわけでもない私は、たちまち体が火照ってきて、気分が高揚してきた。
ふらふら机に向かっていき、ぐびぐび蜂蜜酒をラッパ飲みする。
次第に正気では浮かばないアイデアが次々浮かんでくる。
ペンを動かせば、数字と関数が手を取り合ってロンドを踊りだす。
思考の濁流にさらわれ、「あああ!」「いいい!」と歓喜の雄叫びをあげる。
空間がうねり、視界が暗くなる。頭痛とともに机のダイアグラムが赤く脈動する。
壁一面の数式や図形がぼんやり光って浮かび上がり、とめどなく増えていく。

気が付くと周囲は星々がちりばめられた暗黒宇宙となり、私は机とともにぽつんと浮かんでいた。