0094この名無しがすごい!
2019/11/10(日) 22:15:56.56ID:5DqlT5Xk使用お題→『ジャム』『夜空』『いいね』『ダウンジャケット』『変装』
【北の国】(1/3)
異世界に転生した俺は、しかしなんの因果か、気付いた時にはスライムだった。
青かったり赤かったりする、ぶよぶよで半透明のあれだ。
「……――……――――……」
モンスターがはびこる森の中、俺は一人だった。いや、一匹だった。
仲間はおらず、たまに同族を見付けても、コミュニケーションの一つも取れなかった。
およそスライムというものは、例えばちょっかいをかけてみても、ずるずると逃げるばかりで、てんで話にならないのだ。
「……――、ス――――…………」
他者への関心が薄いのか、そもそも知能が低いのか。
こちらへ来て間もない頃の俺は、そんな風に考えて、同族を見下していた。
「……――い、――――……――――……」
ところで、スライムの食事というのは腐肉あさりのようなものだ。
森の中を移動し、モンスターの死骸を見付けては、骨まで溶かして吸収する。
それが俺の、俺たちの日課だった。
「……お――……――――…………」
ずっと違和感があった。
おかしいな、とは思っていた。
ただそれはあまりにも小さなサインで、だから俺はその日まで、気付かぬ振りを続けていたのだ。
「……――――、スラ――――……」
あの日。
スライムとして、モンスターとして、まどろみの中にいた俺。
そんな俺の意識を大きく揺さぶる出来事が――――
「――――おい、スラ太郎!」
『おおおぅ! びっくりした!』
急に大声を出すな。心臓に悪いわ。
「さっきから呼んでるのに、返事をしないから心配したぞ」
ま、スライムに心臓はないんだが。
「それでスラ太郎」
『その名前で呼ぶな! 目玉の父さんにも呼ばれたことないのに!』
「……何言ってるんだ? おかしなやつだ。いつものことではあるが」
今の俺には仲間がいる。
「もうすぐ次の町に着くぞ。まったく、姫に歩かせて自分はお昼寝する従者だなんて、前代未聞だ」