>>37

使用お題→『ジャム』『夜空』『いいね』『ダウンジャケット』『変装』

【北の国】(1/3)

 異世界に転生した俺は、しかしなんの因果か、気付いた時にはスライムだった。
 青かったり赤かったりする、ぶよぶよで半透明のあれだ。

「……――……――――……」

 モンスターがはびこる森の中、俺は一人だった。いや、一匹だった。
 仲間はおらず、たまに同族を見付けても、コミュニケーションの一つも取れなかった。
 およそスライムというものは、例えばちょっかいをかけてみても、ずるずると逃げるばかりで、てんで話にならないのだ。

「……――、ス――――…………」

 他者への関心が薄いのか、そもそも知能が低いのか。
 こちらへ来て間もない頃の俺は、そんな風に考えて、同族を見下していた。

「……――い、――――……――――……」

 ところで、スライムの食事というのは腐肉あさりのようなものだ。
 森の中を移動し、モンスターの死骸を見付けては、骨まで溶かして吸収する。
 それが俺の、俺たちの日課だった。

「……お――……――――…………」

 ずっと違和感があった。
 おかしいな、とは思っていた。
 ただそれはあまりにも小さなサインで、だから俺はその日まで、気付かぬ振りを続けていたのだ。

「……――――、スラ――――……」

 あの日。
 スライムとして、モンスターとして、まどろみの中にいた俺。
 そんな俺の意識を大きく揺さぶる出来事が――――

「――――おい、スラ太郎!」
『おおおぅ! びっくりした!』

 急に大声を出すな。心臓に悪いわ。

「さっきから呼んでるのに、返事をしないから心配したぞ」

 ま、スライムに心臓はないんだが。

「それでスラ太郎」
『その名前で呼ぶな! 目玉の父さんにも呼ばれたことないのに!』
「……何言ってるんだ? おかしなやつだ。いつものことではあるが」

 今の俺には仲間がいる。

「もうすぐ次の町に着くぞ。まったく、姫に歩かせて自分はお昼寝する従者だなんて、前代未聞だ」