>>939
お題:『たぬき』『フェチ』『化ける』『イタズラ』『巨大』

【入道退治】(1/2)


 白刃が煌めき、1つ目の入道がたたらを踏む。
 ヨロズ買い取りの古道具屋、『白化け堂』店主である天羽 頼光は、その光景を紫煙を燻らせながら眺めていた。

「よ、頼光くん! 手助けをしても良いのではないか?」
「手助けねぇ……」

 彼の横で心配そうにしているのは矢来 翼。今、入道に斬りかかっている矢来 瀧の姉であり、頼光とは旧知の仲である。
 そんな彼女の言葉に、頼光は気が進まないとばかりに眉根を寄せ、紫煙を飲み込んだ。

「何故だい? 君とて術者の端くれだろう? ならばあの、人喰いの化け物を放って置けないのは分かるだろう!」
「人喰い……ねぇ。その情報元は、本所の婆さんかい?」
「うん? そうだが」

 その言葉を聞いて納得が行ったのか、頼光がペタペタと入道に向けて歩き出す。

「!! 頼光! 手出しは無用だ!!」

 入道の目を見つめ、瀧がそう言って牽制する。
 だが、それを聞く様な頼光ではない。
 彼は、なぜか巨大な入道の足元腰を下ろすと、手をパンと1拍し、紫煙を吹き出した。

「我、一線す。夢と現の線引きを! 夢は夢なり、現は現なり、此は現なり、則ちそは現なり!!」

 そう言って剣印を結ぶと横に一線した。

「な、何を!!」

 驚いた瀧が思わず頼光を見る。と、巨大な入道がまるで幻の如く消え去ると、空中から何かが落ちてきた。

 頼光は、つまらなさそうに歩いて行くと、落ちてきた“それ”、子ダヌキを拾い上げた。

「な、何だ!! それは!!」

 慌てた様に瀧が言う。当たり前だろう、先程まで自分が死闘を演じたいた相手だ。
 それが、こんな小さなタヌキだったとしたら、あまりにも滑稽だろう。

「ん? あぁ、これは……」
「きゃーーーーー!! 何それ!! モフモフ!? きゃーーーーー!!」

 言葉を遮られた頼光が、顔をしかめて弟の方を見る。

「あーー、何と言うか、すまん! 姉貴はモフモフに目がないのだ」