ネギ

 今日はせっかく休みで、マイを観察して癒されようと思ったのに、ロードワークに出てしまった。一緒に走ればよかったのだが、少しおっくうだったので帰りを待つ間、劉さんと野良猫のはちべえと庭で紅茶を飲む事にした。
 川沿いを走り、ふれあい橋を渡ってまた川沿いを戻ってくると言っていたのでもうそろそろかと膝のはちべえを芝生に下ろし門まで行って帰って来るであろう右を見た。すると向こうから買い物を籠につんだ自転車の奥さんが走ってきた。
 そのすぐ後ろにマイの姿が見えた。マイは何か持った右手を高々と上げて必死で走って来る。
「ネギーーーーー!」
 その声に気付いた奥さんが一端後ろを振り返り、前に向き直ると、必死の形相で立ち漕ぎを始めた。音速で目の前を通過する奥さん。全速力でネギをバトンのように振るマイが通過。角を曲がって見えなくなった。
「ネギー……」と声が遠ざかっていった。

 ただの

「結局、お宅まで追いかけたのか」
「だってネギがないと晩御飯のメニュー総崩れするんだよ」
「それはそうかも知れないけど、奥さん殺されそうな顔してたぞ」
「ひどいなぁ」
 黒ウーロン茶を一気に飲みほしたマイはポットを冷蔵庫に戻しながら中を覗き込んだ。嫌な予感がする。
「プリンさんプリンさん、あなたは誰のプリンなの?}
 やっぱりロックオンされた。お前はもう食っただろ、それは俺のプリンだ。
「返事が無い、ただのプリンのようだ」
 オイ。