今後10年以内に、日本国内の消費規模は縮小の一途を辿るだろう。近年かくも多くの経済刺激策が打ち出されたにも関わらず、所期の目標に何一つ達しないのもその前兆であろう。

2012年5月、私は「アジアの未来」というシンポジウムに出席するために訪日した。期間中、私は多くの日本政府高官と言葉を交わし、その中で、とわりけ日本が如何にして人口問題を解決するのかについて彼らに見解を求めた。

彼らを刺激しないよう、「移民を受け入れるということは考慮しているか」とは問わず、「どうやって解決すべきか」とだけ尋ねた。すると、彼らの口から出る答えは、その多くが「産休と出産助成金の確保」というものだった。

私は失望した。助成金がどれほどまでの効果を発揮するというのか。同じような政策を実施した国を見てもその効果は非常に限られているではないか。これはお金で解決が図れるような単純な問題ではなく、人々のライフスタイルの変化、考え方の変化といった社会の総合的な要素がもたらした問題であるのだ。フランスやスイスのような出産支援策の成果があがった国であっても、そのプロセスは緩やかで、莫大な資金が投じられている。

日本は今、世界でなんら変哲もない平凡な国へと向かっている。当然、国民の生活水準は今後すぐには低下しないだろう。西洋諸国と違い、日本の「外債」は少ない。しかも、日本の科学技術は依然高水準で、国民の教育水準も非常に高いためだ。

これらすべての条件が時間稼ぎをしてくれるが、最終的には人口問題が暗い影を落とし、そこから逃げ出せなくなるだろう。もし私が日本の若者なら、他の国への移民を考える。日本に明るい未来は見えないからだ。

(作者:シンガポール元首相 リー・クアンユー)