有名人が町で目撃されて話題になった時に書いたもの

「亮平さん、おっそろしく電車が似合いませんね」
 亮平は人差指を左右に振った。
「チッチッチ、メトロって言いな」
「ロックだ!」
「それに太一、俺をよく見ろ」
 亮平は先ほどから吊り革も掴まずに
空いた席の前で腕を組んで仁王立ちをしている。
「こうしてさっきから健康なのに優先席に座ろうとするやつに睨みを利かせているのよ」
「ロックだ!」
 亮平は革ジャンの胸ポケットから櫛を出してさっと髪を梳いた。
「さすがっす!インパラがドッグ入りして電車に乗ってても心はロケンローラーなんすね」
「おうよ、どこでもロックは止まらねえぜ、先日のこった、工場で同じラインにいたイスラム教徒とキリスト教徒が
喧嘩をおっ始めたのさ」
「二人にロックな説教でもしたんすか?」
「ロケンローラーは多くを語らねぇ、黙ってやつらをコンサートに連れて行き、二人ともヤザワ教の信者に改宗させてやったのさ」
「ロックだ!」
 亮平は櫛を取り出してさっと髪を梳いた。「でも亮平さん、先週末は電波が届かない所にいたけど電車じゃないっすよね」
「ふふ、俺はインパラを飛ばして甲州街道の宿場町にいた」
「あれ?なんか急に演歌っぽい」
「そしてなんとあの名物ハチ料理を食ったのさ」
「ロックだ!」
「まて、ロックなのはそこじゃねぇ」
「ど、どういう事っすか」
「なんの因果かハチ料理の中にハエが入っていたのさ」
「おお、なんか微妙な状況だけどそこでガツンとロックな文句を言ったんすね」
「いいや、チリメンジャコの中にタコを発見した気分でハチもろとも食ってやったぜ」
「ロックだ!」
 また櫛がさっと閃いた。
「でもその時彼女さんはどうしてたんすか?」
 亮平は真っ暗な窓の外に顔を向けた。
「あいつはとっくに何処かの誰かと町を出たのさ……」
「振られてるのにロックだ!」
「おうよ、ハートブレイクでレイクにドライブ、車をぶつけてハードにブレイク、やけのやんぱちハチ食う俺は破竹の男!」
「韻踏んだけどロックだ!」
『渋谷〜渋谷でございます』
 電車が駅に到着してドアが開き、やや影を残すように降りた亮平に太一が続いた。するとホームでは何かの人だかりができて中心で外人が揉まれている。
 亮平が飛び上がって駆け寄り、人混みを割って外人の手を握った。
「ジャスティンさんすよね!彼女が大ファンなんですサインください!」
「ロックじゃねぇ!!」