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ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【196】

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0001この名無しがすごい!
垢版 |
2020/07/23(木) 08:20:44.95ID:T52bD52J
オリジナルの文章を随時募集中!

点数の意味
10点〜39点 日本語に難がある!
40点〜59点 物語性のある読み物!
60点〜69点 書き慣れた頃に当たる壁!
70点〜79点 小説として読める!
80点〜89点 高い完成度を誇る!
90点〜99点 未知の領域!
満点は創作者が思い描く美しい夢!

評価依頼の文章はスレッドに直接、書き込んでもよい!
抜粋の文章は単体で意味のわかるものが望ましい!
長い文章の場合は読み易さの観点から三レスを上限とする!
それ以上の長文は別サイトのURLで受け付けている!

ここまでの最高得点77点!(`・ω・´)

前スレ
ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【195】
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0833美世
垢版 |
2020/07/29(水) 20:54:02.54ID:/PRca4Tt
 どっと疲れて帰りに立ち寄った本屋で『人間とは何者か』という本が目に入った。半ば無意識に手に取り、レジを済ますと帰路についた。なんとなくいつもとは違う遠回りな道を、ふらふらと歩きながら取り出した本のカバーを外した。じっとタイトルを見る。
『人間とは何者か』〜人はどこから来てどこへ行くのか〜 ふと頬を温かい空気が撫でた。横を見ると小さな神社がある。私は鳥居の前まで行き、拝殿の奥にあるはずの本殿にじっと目をこらした。
「何者なんですか」
 私はボソリと呟いた。その時だった。
 
「あれ? 諏訪園さん?」
 私は急に声をかけられ、悪戯が見つかった子供のように飛び上がって振り向いた。本がパタリと落ちる。こちらを訝しげに覗き込むように歩いてくる男がいる。
 耳の上辺りで切り揃えたさらさらとした髪の毛。前髪の間からのぞく目元は柳葉のように切れ長で目尻は下がっている。目とは逆に眉毛はやや上向きにきりりとしている。大きくも小さくもない鼻は真っ直ぐに通っていて顎はシャープだ。
 服装は多くの人とは少し雰囲気が違っていて洗練されている。いわば美容師や服飾関係者のそれを感じさせる。要するにイケメンだ。それだけに逆手に取ればチャラい男にみえなくもない。しかし確かに見覚えがある。
 
チャラ男が目の前に来て私は見上げた。背も高い。チャラ男が屈み込んで本を拾ってはたき、表紙をじっと見た後差し出してきた。少し警戒しながら受けとると、チャラ男は顔を曇らせた。
「ほら、覚えてない? 人文社会学で何度かお隣になった」
 思い出した。1年の時に取ろうかどうか迷ったけど結局とらなかった講義だ。そして何度かお隣に『なった』なのではない。最初はここ空いてる? その次からは私を発見すると『やあ』と移動してきたのだ。
 どんどん思い出してきた。私はいかにも遊び人風のこの男が嫌だったのも講義を取らなかった理由の一つだった。
「えーっと、にい……がき君?」
「そう! 新垣! 新垣啓吾」
 別に下の名前は必要ない。
「いやー偶然、この辺りなの?」
 違う、と言おうとして言葉を飲み込んだ。じゃあどの辺だという話に発展しかねないからだ。
「うん」
 新垣の満面の笑みが微妙なものに変わった。しかしすぐに元のように笑うと言った。
「まあどうでもいいけどさ」
 この男、勘も鋭い。油断できない。私は無愛想にニベもない女を演じた。
「何か用ですか?」
「え〜、なんか怒ってる? 参ったな」
 いかにも遊んでそうな男の返しだ。私は止めをさしに行く。
「いえ、なんで私がよく知らない人に怒るんですか?」
「じゃあよく知ってよ、実はこの先のお店でツレと飲むんだけど」
 そして……。
「俺、新垣啓吾、コイツ三島大輔、そっちが北見優斗」
「あ……諏訪園雛子です」
「堂島亜里沙でっす」
「南美咲でーす、ミミって呼んでね」
「うぇーい、よろしくかんぱーい」

 どうしてこうなった。
 新垣の飲みの誘いに、引いた私だったが、運よく亜里沙からの電話がかかってきた。嬉々として電話に出てから、相手を無視して、都合のいいストーリーを作るつもりで一方的に喋った。
「ああ、亜里沙? 遅れてごめん、もうすぐ行くから」
「はぁ? ああ、美咲から連絡あった?」
「あ? ええ、うん、実はそう」
「じゃあ6時半に鳥源ね」
「りょーかーい」
 私は電話を切るとにこやかに言った。
「じゃ、そろそろ私は友達と待ち合わせなので」
 チャラ男は何故かにぃっと笑った。
「俺達も鳥源に6時半なんだよね」
 しまった、通話音量マックスだった。いやしかし知ったこっちゃない。私達は私達で彼らは彼らだ。
「そうなんですか、あそこ美味しいですよね、じゃ」
 私は平静を装って早足で歩き出す。新垣も慌てて歩き出して私の横に並んだ。
「ねぇねぇ、3人で飲むの? 俺達も3人なんだけど」
「そうなんですか3人て丁度いいですよね、それ以上は面倒くさくて」
「いや楽しいっしょ」
「そおですかぁ? じゃあもっとお友達を呼べばいいじゃないですか」
「じゃあ君たちを呼んだり俺達がお邪魔したり」
「今日は女子会なんです、女子会に男子居たらダメでしょう」
0834美世
垢版 |
2020/07/29(水) 20:59:37.49ID:/PRca4Tt
 そんな調子で化かしあいをする事15分。鳥源の前まで来た。しかし私は店先のベンチを見て眉をひそめた。亜里沙と美咲が男二人に挟まれて何か楽しそうに話をしている。新垣が手を上げて大声を出した。
「おいーっす!」
 気づいた男二人が返す。
「うぇーい、おつか……」
 男達と亜里沙と美咲がぎょっとした顔でこちらを見た。男達は固まり亜里沙と美咲は視線はそのままに口を押さえながら顔を寄せた。私はうなだれつつ眉間を摘まんだ。

「ねぇねぇミミちゃんてさ、何学部?」
 人懐っこい笑顔と少し童顔のかわいい北見が美咲に食いついた。関係ないが、美咲は足下が見えないほどの巨乳だ。ちなみに医学科内に彼氏あり。
「医学部でーす」
「ええ! 何学科?」
「医学科でーす」
「ええ! お医者さんになるの?」
「お注射しちゃうぞ」
「されてぇ!」
 君はホントに医学科か、って同じ科なんだから疑いようもない。高校の卒業アルバムは顔立ちこそ悪くないものの、超地味で真面目そうだったのに何があった。あれか、何か少女マンガ的な超展開か。
「ひょっとして堂島さんも?」
 眼鏡のよく似合うインテリサラリーマンのような三島がきいた。
「そうでっす」
 3人の視線が一気にこっちに向く。私は渋々頷いた。
「うおースゲー女医さん三姉妹だー」
 一方的に尋問されて悔しかった私は何の反撃にもならないが質問した。
「新垣君は何学部なのよ」
「俺は政治経済学部だけど」
 うちの政治経済学部に学科は1つしかないのでそれ以上聞く必要はない。
「へえ、なんか難しそうだね」
「いや、医学部ほどじゃないよ」
 医学は難しいのかな。確かに覚える事が多くて基礎知識もいるけど、蓄積してきた知識の価値が短期間に急上昇したり、大暴落したりする事は無い。
 政治経済といえばナマ物だ。政治情勢、財界、国際情勢等が複雑に絡み合い、時にドラスティックに変化する、そんな状況下で
何かをテーマに研究したり、コントロールを試みる。そんな所だと認識している。
 この時点で私が新垣に激しく興味を抱いているように見える事を、私は意識していなかった。
 三島が隣の新垣に怪訝そうな口調で聞いた。
「で、なんでお前、諏訪園さんと仲良さそうに歩いてきたの?」
 いや、仲良くはない。むしろ苦手だし変なことをいうんじゃない。
「うん、1年の時に人文社会学の講義で仲良くなった」
 お前も平気で嘘つくんじゃない。
「いや、顔見知りって程度で仲良くは」
 北見が好色そうな表情でちくちくと指さしてくる。
「またまたぁ照れちゃって」
照れてんじゃないしむしろ迷惑だ。コイツがイケメンだから女はだれでも惚れると思ってるな。もういいやめんどくさい。

 そのうちなんだかんだで宴もたけなわになり、私も新垣の話し上手に段々乗っていたのだが、美咲が解剖の話をし始めた。そりゃ他学部の興味を引くには絶好のネタだろう。
 しかし話はどんどんエスカレートし、ご遺体の耳で壁に耳ありをやらかして退学になった先輩がいるとか、小腸で縄跳びして以下略……。など実話かどうかわからない都市伝説を語り始めた。
 私はどんどん無口になっていった。私のジレンマを知っている亜里沙は美咲との間に壁を作り、私を気遣っている。新垣は私の変化に気づいて様子を観察していたのだろうか。唐突に言った。
「人間とは何者か……か」
 私は驚いて顔を上げた。目をあわせた後も、なにか言いたげな表情で私を観察しているようだった。差し障りの無い話から隙を見ていきなり触りに来やがった。そして反応を見ている。やはりコイツは油断ならない。
「諏訪園さんは頭がいいんだろうね」
「え、なんのはな……」
「医学部だし、少なくとも俺より頭がいい、でも賢くはない」
 私がポカンと口をあけて絶句していると、新垣はにやりとした。
「あんな本を読んでも何も解りはしないよ、むしろ愚かだね」
 隣で亜里沙があたふたしている気配がする。しかし私は図星をつかれて逆上した。
「そんな事わかってます!」
 私はアイスポットから焼酎のボトルを抜いて手酌でグラスに注ごうとしたが、それを奪い取った亜里沙が適度に注いで、氷を追加した。新垣は私の反応を楽しむように続ける。
0835美世
垢版 |
2020/07/29(水) 21:31:58.00ID:xT0qg1tQ
「人間は普通に親から生まれてきて生きている、考えてもしょうがない、人間は嫌だというなら死ぬしかない、そんなのナンセンスだろ
だから人間として考えて行動して食ってクソして寝る、その中でなんかいいことあればいいなって思うんだ、こうして仲間と飲んだり、恋したり、結婚して子供が出来たり」
 この失礼な男の話など、と思い、知らぬ顔をしながら焼酎をがぶ飲みしていたが、気がつくと私は新垣の話を注意深く聞いていた。
「選択肢が無いんだから後はどんだけ楽しく生きるかだけしかない、そりゃ苦しい事も避けて通れない辛い事だってあるだろう、そんときゃ人生ゲームのクエストの発動だと思えばいいさ」
 ここまで聞いて、同年代に不釣り合いな達観した発言に、しっぽを見つけたりとばかりに、余裕の笑みを作った。
「へぇ、ずいぶん経験豊富なようで」
 新垣は動じることなく爽やかに笑った。
「豊富なわけないだろ、時間は皆平等だ、同期なんだし経験の量はあんたと大して変わんねーよ」
 肩透かしな発言に私は焦った。自分でもわかるぐらい上ずった声で反論する。
「そのわりには……」
 新垣が遮った。
「ただ、経験した事はあんたと同じじゃない」
 一瞬新垣の表情が変わった。顔は無表情で、目だけが私の眼球を突き抜けてはるか遠くを見ているような。私は硬直した。しかし新垣はすぐに優男に戻ってにっこりと笑った。私も金縛りが解けたように体の力が抜けた。
「ただ俺は、寿命の限りやることをやる、それだけ」
 私は拍子抜けした。終わってみれば謙虚な答えだった。しかし本題とは関係がなく、全く論理的ではない、普通の人生を生きるって話だった。でもちょっとまて
それとは別に何か引っかかる。何かおかしい。彼を見ながらそんな事を考えていると、今度はさっきの浮世離れした目とは違う強い眼光を私に浴びせてきた。そして静かだが、得体のしれない強さを持った口調で言った。
「君は違うようだが俺は自分が何者かなんて興味はない、ただ、生きているうちにやりたいことをやる、できれば後世に残るような偉業を俺はやりたい、そのために生きている、やりたいことは
人それぞれだが、皆何かをやりたいという意思に従って直接にしろ間接にしろ行動している、それが人間じゃないの? 何もしないなら『人間とは』以前に生きてる意味がない」
 衝撃だった。私の追求せんとするものを全否定しているにも関わらず、それを説得力で全て押し潰すような迫力だ。
 私はそんな事を考えたことも無い。視野の狭い子供のなぜなにを、そうだからそうなの! で強制終了された気分だ。
 再びボトルを掴んだ私の手を亜里沙が制したが、はねのけて焼酎を注ぐ。そうしながら更に考えた。私が求めてるのはそんな答えじゃない。
 私は医学を通して人間とは何かを解き明かそうとしたんだ。解が求められればなんだってわかる。そう、亡くなった人がどう生きたかだって。
 だから私は権兵衛さんがどう生きたかぐらいは知っている。
 歳のわりには骨も筋肉もしっかりしてた。元スポーツマンか、日常的に運動する人だった。ペンダコが大きかったからデスクワークだって得意。でも晩年は腰痛に悩んでた、歯も少し弱かった。
 死因はアテローム血栓性脳梗塞。倒れた時に頭を打撲したせいで、未治癒の裂傷があった、献体するまでは髪の毛がフサフサだった、でも白髪……。
 煙草は吸わないから肺は綺麗で、実習内試験の時に他班の子に自慢するほどだった……。ボトルとグラスがカチカチと音をたているが滲んでよく見えない。
 亜里沙がボトルネックを下から支えて押し上げ、ゆっくりと取り上げた。私はグラスに口につけ、酒が唇に触れるとそのまま固まった。そして震える唇でゆっくりと吸う。

 ……だめだ、私は彼が人としてどう生きたのかがわからない。彼でも知らない彼の構造は知っているというのに。人をマシンとして見る事を嫌っていたのに、それ以上の物が見えてこない。
 なのに新垣は人にマシン以上の何かを見いだしているようにさえ思えた。なんと言うことだろう。私は溢れ出る涙を止める事が出来なかった。
 ぼそりと新垣の声が聞こえた。
「ひょっとして、何がしたいのかもわからずに医者を目指してんの?」
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